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平成13年3月13日
経済産業省産業技術総合研究所
機械技術研究所
統括研究調査官室




静電型光モータの研究
−− 紫外線でまわる新型モータ開発 −−

機械研NEWS,2001,No.2より

機械研NEWS textfile

機械技術研究所 物理情報部 計測制御研究室
森川 泰


<ポイント>

PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛):紫外線で電圧発生
発生電圧と静電力で回転子を引きつけ連続回転
マイクロマシンの動力源として期待

<概 要>


 経済産業省 産業技術総合研究所 機械技術研究所では,PLZT 素子が持つ光起電力効果による高電圧と静電力を利用して回転する静電型光モータを開発した.現在はゆっくりとした回転と小さいトルクしか発生できていないが,静電型光モータの実現の可能性を確認することができた.今後は発生力などの解析を進めて試作装置の改良に努めるとともに,PLZT 素子の材料特性の改善により静電型光モータの性能向上を図っていく予定である.



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図1 PLZT 素子
  • 波長365nm付近の紫外光を素子に照射すると素子は光起電力効果で分極方向に内部起電流を発生.
  • その結果,電荷が電極に蓄えられる高電圧で機械的歪みを発生.






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    図2 光起電力効果と静電力
  • 2枚の平行な固定子の極を配置し,それぞれをPLZT 素子の両端の電極に電気的に接続.
  • 固定子の極の間に平行に移動子を配置する.それぞれの極が一部重なる状態でPLZT 素子に紫外光を照射すると,2 枚の固定子の極間に高電圧が発生.
  • この高電圧による静電力で固定子の極と移動子の極が重なる方向に力が発生.






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    図3 静電型光モータの機構

  • 固定子の極が3 個で回転子の極が4 個の場合を示す.
  • 固定子の極と回転子の極の数を増やすことで発生力を大きくできる.






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    図4 駆動原理

  • (a)の場合,回転子の極が固定子の極と重なっている.この時に右下のPLZT 素子に光照射を行うと,右下の固定子の極間に高電圧が発生して回転子の極が静電力によって引き寄せられ時計回りに回転.
  • (b)の位置関係まで回転した後,左下のPLZT 素子に光照射を行うと,左下の固定子の極間に高電圧が発生し左下の回転子の極が引き寄せられて時計回りに回転.
  • (c)の位置関係まで回転した後,上のPLZT 素子に光照射すると(a)の位置関係まで回転する.この(a,b,c)の3つの行程を繰り返し連続的に回転.






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    図5 実験装置
  • 回転子の直径が90mm ,固定子と回転子の間隔が0.5mm で,高さが10mm ,幅が10mm ,厚さが0.5mm のPLZT 素子を3枚備えた静電型光モータ.
  • 1 つの固定子の極の円周方向の幅は11.25 °. 照射光強度は約0.2W/cm 2紫外光.
  • 3 枚のPLZT 素子に順番に紫外光を照射すると固定子の極の幅の2/3 ずつ回転.






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    図6 実験結果

  • 約9 °の回転に照射開始から2.5 秒かかる.
  • 照射開始から動き出すまでに約1 秒かかることから,発生する静電力に対して回転子を保持している軸受けでの摩擦力が相対的に大きいと推測される.









  • 静電型光モータの研究

    機械技術研究所 物理情報部 計測制御研究室
    森川 泰
    TTEL:0298−61−7105



    <概 要>
    機械研NEWS,2001,No.2より




    1 .はじめに

     光アクチュエータとは光の持つエネルギーと情報とを積極的に利用するアクチュエータのことで,高い耐電磁ノイズ性や非接触エネルギー供給,小型軽量など優れた特徴を合わせ持つ可能性を秘めている.光歪素子であるPLZT 素子は光エネルギーの照射を受けると機械的変位を発生する光歪効果という優れた特性を有しており,光アクチュエータへの応用が期待されている.これまでにもPLZT 素子の光歪効果を利用する光アクチュエータに関する研究1 ),2 ),3 ) が行われている.しかし,これらはPLZT 素子の物理特性から光照射で機械的変位を直接発生でき発生力も大きいが,発生変位が非常に小さいかった.そこでPLZT 素子の持つ特性のうち光起電力効果によって発生する高電圧を利用して大きな変位の機械運動を取り出す幾つかのアクチュエータシステムに関する研究4 ),5 )が始められている.

     これらの研究のうち物理情報部計測制御研究室では極限技術部微小機構研究室と協力して静電型光モータの研究を行っている.これは新機構の光アクチュエータで,大きな変位の回転運動を発生する為にPLZT 素子の光起電力効果でできる高電圧と静電力を利用しているのが特徴である.ここでは,この静電型光モータの駆動原理と,原理を確認する為に実施した基礎実験の結果を紹介する.



    2 .PLZT 素子

     素子の材料であるPLZT セラミックスとはチタン酸鉛とジルコン酸鉛の化合物に酸化ランタンを添加して焼結させたチタン酸ジルコン酸ランタン鉛のことで,セラミックス多結晶体であり,圧電材料の一種である.このPLZT セラミックスの両端に電極を作成し分極処理を施したものがPLZT 素子である.図1 に示す様に波長が365nm 程度の紫外光をこの素子の側面に照射すると素子は光起電力効果で分極方向に内部起電流を発生し,その結果電荷が電極に蓄えられることで発生する高電圧の圧電効果で機械的歪みを生じる.この2 つの効果を総称して光歪効果と呼んでいる.この光起電力効果で発生する電流は微弱であるが,発生電圧は非常に高い.光起電力効果によって発生する電圧は電極間の距離である素子の高さH で決まる.電極間距離当たりの発生電圧は3.3kV/cm であり,小さな素子単体で高電圧を発生できることが分かる.光起電流は照射光の光強度に比例する.また,この素子の電気容量は素子の幅W と厚さD に比例し高さH に反比例する.電気抵抗は高さH に比例し光強度と幅W に反比例する.


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    図1 PLZT 素子





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    図2 光起電力効果と静電力






    3 .静電型光モータ

     まず静電型光モータの基本原理を説明する.図2 に示す様に2 枚の平行な固定子の極を配置し,それぞれをPLZT 素子の両端の電極に電気的に接続する.この2 枚の平行な固定子の極の間に移動子の極が固定子の極と平行で一部重なる状態で置かれた時にPLZT 素子に紫外光を照射すると,2 枚の固定子の極間に高電圧が発生し,この高電圧による静電力で固定子の極と移動子の極が重なる方向に力が発生する.固定子の極と移動子の極の幅w が大きいほど,固定子の極と移動子の極の間隔d が狭いほど,また固定子の極と移動子の極の間の電圧が高いほど,この時発生する静電力F は大きくなる.マイクロマシンの様に小さい構造では駆動力として静電力が有効なので,静電力に必要な高電圧を発生できるPLZT 素子はマイクロマシンと相性が良いことが分かる.このことから将来マイクロマシンなどの動力源としての応用が期待される.

     静電型光モータは,この様な駆動力を連続的に発生させて回転運動を取り出す為に図3 に示す様な機構をしている.この図では最も単純な場合として,固定子の極が3 個で回転子の極が4 個の場合を示す.固定子の極と回転子の極の数を増やすことで発生力を大きくできる.この例では,円盤の円周上に3 個の極を配置した2 枚の平行な固定子の間に4 個の極を配置した回転子を平行に配置している.対となる上下の固定子の極はそれぞれPLZT 素子に電気的に接続されている.回転子は軸に固定されており,その軸は軸受けによって保持され,自由に回転可能となっている.


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    図3 静電型光モータの機構





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    図4 駆動原理




     連続的に回転させる為の行程を図4 に示す.この図は固定子と回転子を回転子の軸方向から見た図で,回転子の極は点線で描かれている.図4(a)では図中の上にある固定子の極のところで回転子の極が固定子の極と重なっている.固定子の極と回転子の極が図4(a)の様な位置関係にある時に右下のPLZT 素子に光照射を行うと,右下の固定子の極間に高電圧が発生して回転子の極が静電力によって引き寄せられ時計回りに回転し,図4(b)の位置関係まで回転する.次に左下のPLZT 素子に光照射を行うと,左下の固定子の極間に高電圧が発生し左下の回転子の極が引き寄せられて時計回りに回転し図4(c)の位置関係まで回転する.同様に今度は上のPLZT 素子に光照射すると図4(a)の位置関係まで回転する.この3 つの行程を繰り返すことにより連続的に回転させることができる.

     この静電型光モータの特徴は,光によって非接触でエネルギー供給とコントロールが行え,回転運動でしかも大きな変位の機械運動を取り出せることである.また,固定子の極や移動子の極を直線上に配置することによりリニアモータとすることも可能である.




    4 .駆動実験

     この静電型光モータの基本的な動作や性能を調べる為に図5 に示す実験装置を製作した.回転子の直径が90mm ,固定子と回転子の間隔が0.5mm で,高さが10mm ,幅が10mm ,厚さが0.5mm のPLZT 素子を3枚備えた静電型光モータである.発生力を稼ぐ為に固定子の極の数を増やしてあり,1 つの固定子の極の円周方向の幅は11.25 °である.照射する光は光強度が約0.2W/cm 2の紫外光である.3 枚のPLZT 素子に順番に紫外光を照射すると固定子の極の幅の2/3 ずつ回転させることができる.

     連続的に駆動させる為には図4 で示した3 行程を繰り返し行う必要があるが,ここではそのうちの1 行程分のみ駆動させた時の回転子の動きを計測した実験結果を紹介する.静電型光モータのPLZT 素子の1 つに紫外光を照射すると,図6 に示す様に固定子の極の幅よりやや小さい約9 °の回転をするのに照射開始から2.5 秒を要している.この時,照射開始から回転子が動き出すまでには1 秒ほど掛かっている.動き出すまでに時間が掛かっていることと動きが非常にゆっくりであることから,発生する静電力に対して回転子を保持している軸受けでの摩擦力が相対的に大きいと推測される.より大きな発生力を得る為に,静電力の性質を考慮して全体の小型化や固定子や移動子の構成の改良,PLZT 素子の電気特性の改善をする必要がある.



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    図5 実験装置





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    図6 実験結果




    5 .おわりに

      PLZT 素子が持つ特性のうち光起電力効果を利用して機械運動を発生させる静電型光モータを紹介した.これまでに我々が試作した静電型光モータではゆっくりとした回転と小さいトルクしか発生できていないが,静電型光モータの実現の可能性を確認することができた.今後は発生力などの解析を進めて試作装置の改良に努めるとともに,PLZT 素子の材料特性の改善により静電型光モータの性能向上を図る予定である.

    参考文献

    1 )中田・他3 名,光サーボシステムの基礎的研究(PLZT 素子における光起電力効果の電気的モデル),機論,58-552,C (1992 ),2513
    2 )Ichiki,M.et al.,Photostrictive Actuators and Its Some Characteristics, Ferroelectrics, Vol.232 (1999),259 3 )森川・中田,PLZT 素子を用いたバイモルフ型光アクチュエータ(第1 報,オン・オフ制御による光アクチュエータの変位制御),機論,63-612,C(1997 ),2714
    4 )石原・福田,分散形マイクロロボットシステムに関する研究(第3 報,非接触エネルギー供給システムを用いたマイクロ移動ロボットシステム),機論,60-571 ,C (1994 ),986
    5 )藤井・中田,ER 流体を用いた光マイクロ駆動系,機講論,No.98-3 (1998 ),257


    [発表者]


    機械技術研究所 生物理情報部 計測制御研究室 森川 泰
    TEL:0298−61−7105


    [連絡先]


    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
    Tel:0298-61-7034,Fax:0298-61-7033
    chisaka@mel.go.jp






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