![]() |
|
平成12年度09月12日
通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室
シリコーンラバーマイクロバルブの開発に成功
−製作工程の大幅単純化をはかる−機械研NEWS,2000,No.8より
機械研 NEWS text fileへ
<ポイント>
◎ マイクロマシン技術の応用で,化学生化学関連装置の微小集積化は重要 ◎ 高機能なマイクロ化学分析システムには微小な流体制御素子の開発が不可欠 ◎ とりわけ製造コストの低いデバイスが望まれている
<概 要>
化学・生化学関連装置の微小化,集積化は,試料の節減,操作の自動化・高速化などの効果が期待できるためマイクロマシン技術の応用として要望の高い分野である.このような,試みとして最近電気泳動やPCR (Polymerase Chain Reaction)など単純な機能を持ったマイクロチップが盛んに発表されている.ところが,高機能なマイクロ化学分析システムの構築をはかり普及をはかるためには,マイクロバルブなどの微小な流体制御素子の開発が不可欠であり,とりわけ製造コストの低いデバイス製法が望まれている.
通商産業省 工業技術院 機械技術研究所では,このような製造コストの低いマイクロデバイスの製法開発をおこなっている.今回は,流路・メンブレンがPDMS材で,そのそれぞれが型成形・スピンコートといった単純な製作行程を採用してマイクロバルブを製作することに成功した.型成形技術とDRIE (deep reactive ionetching)の採用により,従来にくらべて製作工程が大幅に単純化されているのが一つの特徴である.
図1 マイクロバルブのデザイン
PDMS チップには流路(幅140 μm ,高さ25 μm ,長さ14mm ) 85 μm のギャップが弁座の役割 外部から減圧してメンブレンを変形させ,バルブを開く
図2 製作工程
PDMS チップを型成形する工程(図2 A〜C ) 基板上にメンブレンを形成する工程(図2 D〜E ) 組立て工程(図2 F )
図3 製作したマイクバルブの写真(a)
図3 製作したマイクバルブの写真(b)
図4 メンブレンにかける圧力差(大気圧pa と制御圧力pc の差)に対する,メンブレン中央部の変位.
図5 マイクロバルブの流量特性.
ただしpi :入口圧力,po :出口圧力,pc :制御圧力.
開状態での流量は水の駆動圧力におおむね比例 システム全体の水に対する流路抵抗は1.1kPa/(μL/min) 閉状態での漏れは検出できない ヒステリシス(開閉動作の圧力差)は主に弁座とメンブレンの固着による
機械技術研究所 生産システム部 界面制御研究室
細川 和生
TEL:0298−61−7225
機械研NEWS,2000,No.8より
1 .はじめに
マイクロマシン技術の応用として,化学・生化学関連装置の微小化,集積化は最も有望な分野の一つである.そのようなシステムはマイクロ化学分析システム(Micro Total Analysis Systems,μTAS)と呼ばれることもあり,試料の節減,操作の自動化・高速化などの効果が期待されている.現在のところ電気泳動やPCR (Polymerase Chain Reaction)など単純な機能を持ったマイクロチップは多数発表されているが,今後それらを組み合わせて高度なシステムを構築するためには,マイクロバルブなどの微小な流体制御素子の開発が不可欠であり,とりわけ製造コストの低いデバイスが望まれている.
一般的に,マイクロバルブは微細な流路と,その途中にある弁座と,弁座をシールするメンブレンから構成され(図1 参照),空気圧や形状記憶合金などでメンブレンを変形させることにより流路を開閉する.メンブレンに好適な材料として,大きな変形と優れたシール性が得られるシリコーンラバーがある1 ).また一方では,シリコーンラバーの一種であるPDMS (polydimethylsiloxane)を型成形して,微細な流路を比較的簡単に製作することができ,低コスト化に適した方法として注目されている2 ).PDMS には以下のように有用な特性がある.
(1 )サブミクロンの精度で型の形状を転写できる.
(2 )表面が粘着性を持っており,流路をシールするための接合工程が不要である.
(3 )無色透明であり,流路内の観察や化学物質の検出に有利である.
(4 )生体物質とほとんど相互作用しない.
しかしながら,これまでPDMSの型成形技術をマイクロバルブに応用した例はなかっ た.生産システム部 界面制御研究室で開発したマイクロバルブは,流路・メンブレンともにPDMS を材質とし,それぞれ型成形・スピンコートによって製作されている.型成形技術とDRIE (deep reactive ionetching)の採用により,従来にくらべて製作工程が大幅に単純化されているのが一つの特徴である.
図1 マイクロバルブのデザイン
2 .設計及び製作
本研究のマイクロバルブはPDMS のチップとシリコン基板を貼り合わせて構成される.図1 に示すように,PDMS チップには流路(幅140 μm ,高さ25 μm ,長さ14mm )が造ってあり,その途中に設けた85 μm のギャップが弁座の役割を果たす.シリコン基板上には 厚さ25 μm のPDMS 膜がスピンコートしてあり,一辺350 μm の正方形の貫通穴によって可動なメンブレンが形成されている.通常,弁座はメンブレンでシールされ,バルブは閉状態となっている.外部から減圧してメンブレンを変形させ,バルブを開く. このマイクロバルブの製作工程を図2 に示す.おおまかな流れとしては,PDMS チップを型成形する工程(図2 A〜C ),基板上にメンブレンを形成する工程(図2 D〜E ),組立て工程(図2 F )からなる.まずPDMS チップを成形するための反転型を製作する.シリコン基板上に超厚膜フォトレジストSU- 8 をスピンコートにより厚さ25 μm 塗布し,露光,現像する(図2 A ).離型のための表面処理を行った後,未架橋のPDMS (やや粘度の高い液体)を流し込み,オーブンで100 ℃に加熱して硬化させる(図2 B ).硬化したPDMS を反転型から剥がし,外部接続用の穴(φ1.5mm )を金属のパイプを使って打ち抜く(図2 C ).反転型は10 回程度は再利用が可能である.
図2 製作工程
一方,別のシリコンウエハ上にメンブレン用として未架橋のPDMS をスピンコートによって25 μm 塗布する.100 ℃で1h 加熱し,硬化させる(図2 D ).つぎに,可動部分をつくるためにウエハの裏側から貫通穴をあける(図2 E ).ここではSU- 8 をマスクとしてDRIE を用いており,厚さ400 μm のウエハが3h ほどで貫通エッチングできる.エッチングの終了は精密に制御していないが,PDMS がアタックされた様子はなかった.従来,これと類似の構造を作るためには窒化膜や酸化膜などのエッチング停止層を使用し,後で そのエッチング停止層を取り除くといった複雑な工程が必要であった.本研究の場合はPDMS 自身がエッチング停止層の役割を果たすため,従来にくらべて工程が著しく単純化されている.最後に,二つの部品を実体顕微鏡下で位置合わせしながら貼り合わせる.硬化 したPDMS の表面は粘着性を持っており,特別な接合技術なしで流路がシールできる.ただし,10kPa を越えるような内圧をかけると漏れを生じることがあるため,次節に述べる評価実験では負圧のみを用いた.完成したマイクロバルブの写真を図3 に示す.
図3 製作したマイクバルブの写真(a)
図3 製作したマイクバルブの写真(b)
3 .評価実験
まず,組立て工程の前にメンブレンの特性を評価した.制御ポートに負圧をかけながらメンブレン中央部の変位をレーザ変位計で計測した.図4 に示すように,チャネル高さ(25 μm )に比べて十分に大きい変位が得られることがわかった.完成したマイクロバルブの評価実験は以下のような方法で行った.入口ポートにシリコーンチューブをつなぎ,その中を水で満たす.チューブの他端は大気圧に解放しておく.出口及び制御ポートはそれぞれ独立の真空レギュレータを介して,共通の真空源に接続する.出口ポートにp o =−10 〜−20kPa ,制御ポートにp c =0 〜−80kPa の範囲の負圧をかけ,入口側のシリコーンチューブの水面の移動速度を計測し,体積流量を計算した.
図4 メンブレンにかける圧力差(大気圧pa と制御圧力pc の差)に対する,メンブレン中央部の変位.
図5 の流量特性曲線が示すように,ほとんど線形域は見られず,このバルブはオンオフ動作することがわかる.図4 に示すメンブレンの特性がおおむね線形であることを考え合わせると,次のような推測ができる.すなわち,ある程度(例えば20 μm 以上)メンブレンがたわんだ状態では,バルブ部分の流路抵抗(圧力降下)は流路の直線部分に比べて十分小さく,システム全体の流路抵抗はほとんど後者で決まっている.また図5 からわかるように,開状態での流量は水の駆動圧力p i −p o におおむね比例している.システム全体の水に対する流路抵抗を計算すると1.1kPa/(μL/min)となる.なお,閉状態における漏れは全く検出できなかった.図5 におけるヒステリシス,すなわち閉動作の圧 力と開動作の圧力との差は,主に弁座とメンブレンの固着によるものと考えられる.
図5 マイクロバルブの流量特性.
ただしpi :入口圧力,po :出口圧力,pc :制御圧力.
この固着力を減少させるために,メンブレンをポリイミドやパリレンなどの保護膜でコートするという対策を現在検討中である.このような保護膜は,PDMSを不可逆的に接合してバルブを構成する場合にも必要となる.すなわち,接合前にPDMS 表面を酸素プラズマで処理することにより不可逆的な接合が可能であるが,この技術を利用して高い内圧に耐え得るマイクロバルブを開発する場合,メンブレン部分だけは離着できるように酸素プラズマから保護しておく必要があるからである.
参考文献
参考文献
1 )C.Vieider,O.Ohman,and H.Elderstig,"A pneumatically actuated micro valve with a silicone rubber membrane for integration with fluid- handling systems, "Proc. Transducers 95, vol.2, pp.284-286, Stockholm, 1995.
2 )K.Hosokawa,T.Fujii,and I.Endo,"Handling of picoliter liquid samples in a poly (dimethylsiloxane) - based microfluidic device," Analytical Chemistry, vol.71, no.20, pp.4781-4785,1999.
[発表者]
機械技術研究所 生産システム部 界面制御研究室
細川 和生
TEL:0298−61−7225[連絡先]
機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
chisaka@mel.go.jp
戻る