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平成12年度05月29日

通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


進化型設計技術
−製品の再生を目指して−

 

機械研 NEWS textfile

 

<ポイント>


機械技術研究所は,使用中の機械や遊休中の機械に新機能を付与して高度化することにより,機械を再生し寿命を延長する「進化型設計技術」を完成した.この「進化型設計技術」は,機械を進化させる方法を極めて短時間に導き出すため,設計時間の大幅な短縮が期待できる.

 ◎既設エレベータ改造設計問題
    最大可搬重量を2000 ポンドを3000 ポンドに
    最大速度200 インチ/秒を250 インチ/秒に
    解探索 = 従来数時間かかった初期解の算出を5分に短縮

 ◎汎用工作機械の改造による専用機化(再生)問題 
    (遊休汎用旋盤)+(タレットヘッド付きドリルユニット)
                 =(旋盤改造による専用機)


 

<概  要>

 身の回りの電気製品,機械,自動車などは故障や性能の劣化に対して,点検,修理,保守で製品の性能を維持し寿命を伸ばすことが可能である.しかし,周りの環境の変化から機能や性能を変えなければならなくなり部品交換や新規な機能の追加・改造が必要な場合がある.このような環境変化への適応に対する体系的な保守システムは存在せず,多くの製品が本来の物理的寿命を迎える前に廃棄されている.

 通商産業省 工業技術院 機械技術研究所では,すでに設置されている大型機械や生産設備などを主な対象として,使用している部品や機能をできる限り再利用しながら環境の変化に応じて製品を進化させること,すなわち機能を追加したり取り除いたりして性能や機能を環境変化に適合させる,環境に優しい「進化型設計技術」を研究している.

 機械技術研究所では,「進化型設計技術」の確立を目指して多数の事例調査を行った結果から,進化型設計を進めるに当たって,モジュールや部品のパラメータを適切に選択することによる設計(コンフィギュレーション設計)の有効性を検証した.今回は,進化型設計技術として構造について「固定型」と「可変型」のコンフィギュレーション設計を「エレベータ」と「汎用工作機械」に適応し,「エレベータ」の場合に従来は数時間かかった初期解の算出をの5分と大幅な短縮が可能となり,「汎用工作機械」の専用機化の場合には数百万円程度の費用の半額で可能であることを立証した.

 

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図1 コンフィギュレーション間最短経路探索

要求を満たす部品交換の方法が多数存在する場合は,コストミニマム,環境負荷ミニマムの観点から最適なものを探索することになる.

 

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図2 エレベータの構成

当所が開発した基本設計支援言語FDL-Uをエレベータ設計問題に適用.仮想製品の要求仕様,最大可搬重量を2000 ポンドを3000 ポンドに,最大速度200 インチ/秒を250 インチ/秒に変更し解探索.最初の解を5 分程度で求めることができ,8 時間程度ですべての(458通り)解を求めることができた.

 

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図3 設計解の数と部品交換数の関係

 

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図4 汎用旋盤の概略図

 

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図5 タレットヘッド付きドリルユニット

 

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図6 旋盤改造による専用機

 

fig4.gif + fig5.gif = fig6.gif

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図7 進化型設計における機能推論

遊休の中古旋盤をタレットヘッド付きドリルユニットを備えた専用機として再生
遊休の中古旋盤には旋削,ドリル加工の機能があり,旋削機能のためには,回転,芯出し,送り,削りなどの機能が必要

 

 


 

進化型設計技術
−製品の再生を目指して−

物理情報部 数理工学研究室  今村  聡

 

<概 要>

機械研NEWS,2000,No.5より


◎コンフィギュレーション間最適経路探索技術のエレベータ設計への適用例
◎構造可変型コンフィギュレーション設計の旋盤のタップ加工専用機改造への適用例

 

1 .はじめに

 製品や設備の故障,劣化に対しては修理,メンテナンスによる対応で製品寿命を伸ばすことが可能であるが,製品,設備に対する要求の変化や社会環境の変化による不適応に対しては体系的な対策が存在せず,多くの製品が本来の物理的寿命を迎える前に廃棄されているのが現状である.

 物理情報部数理工学研究室では,既存の大型機械,生産設備などを主な対象に,既存製品の部品・機能をできる限り再利用しつつ,環境の変化に応じて製品が進化(機能の追加/削除,性能の変化)させる技術を調査研究している.これは,要求の変化に対して機械構成を柔軟に変更させ,製品の寿命を延ばし,再生させることを目的とした技術である.

 多数の事例調査を行った結果,進化型設計では,コンフィギュレーション設計(モジュール・部品・パラメータを適切に選択することによる設計)が有力なアプローチと判明した.本稿では,進化型設計技術として構造固定型と構造可変型のコンフィギュレーション設計を提案し,エレベータの性能向上,汎用工作機械の専用機化の事例を紹介する.

 

2 .進化型設計技術

 (a )構造固定型コンフィギュレーション
 製品の基本構成は変えずに,部品やモジュールを交換することにより性能の向上を実現する.要求を満たす部品交換の方法が多数存在する場合は,図1 に示すようにコストミニマム,環境負荷ミニマムの観点から最適なものを探索することになる.また,将来アップグレードが想定される場合,アップグレードの容易な設計解を求める.このクラスの設計は,コンフィギュレーション設計システムによる設計解探索が可能である.事例としてFDL-U設計言語1)によるエレベータ改良設計を3 節に示す.

 

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図1 コンフィギュレーション間最短経路探索

 (b )構造可変型コンフィギュレション
モジュールの追加などにより製品構成自体も変化する場合は,設計解の探索空間が閉じておらず,設計解も多様なものがありうる.要求機能を実現するモジュールの選択,構成に関しては設計アイデアの発想支援のアプローチが有効であろう.また,解探索の自動化には遺伝アルゴリズムなどの生物進化的アプローチがある1)2).事例として,工作機械への適用例を4 節に示す.

 

3 .事例1 :エレベータの進化型設計

 2.(a)で述べた,コンフィギュレーション間最適経路探索技術のエレベータ設計へ適用例を紹介する.エレベータは図2 に示すような構成をとる.エレベータ設計は次のような特徴をもつ3)4)

 (1 )コンポーネント数27 個,パラメータ数301 個,制約数336 個からなる大規模設計問題である.
 (2 )要求仕様として入力された26 個のパラメータ値に対して,設計式の数が300 以上,コンポーネントの数が25 個程度あるので,解を決定的に求めることができない.すなわち,過 小制約問題である.
 (3 )多くの設計計算式が条件付きで成立する.つまり,計算中に解くべき制約集合が変化する.

 

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図2 エレベータの構成

 この問題は設計システムのベンチマーク問題として広く知られているが,設計解を求めることができた設計システムは世界でも数えるほどしかなく,また,解けた場合でも数時間以上の時間を費やし一つの解を求めることができた程度である.

 当所で開発した基本設計支援言語FDL-Uを,このエレベータ設計問題に適用した.すでに存在する仮想製品の要求仕様のうち,最大可搬重量を2000 ポンドから3000 ポンド,最大速度を200 インチ/秒から250 インチ/秒に変更し解探索を行ったところ,最初の解を5 分程度で求めることができ,8 時間程度ですべての(458通り)解を求めることができた.図3 に必要な交換部品と設計解の個数の関係を示す.交換部品の数は設計解により異なり,15 通りの解では部品交換なしで(パラメータの変更のみで)アップグレードが可能であった.これらの中から最適解を求めることが可能である.

 

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図3 設計解の数と部品交換数の関係

 

4 .事例2 :汎用工作機械の専用機化

 2(b)で述べた構造可変型コンフィギュレーション設計の事例として,旋盤のタップ加工専用機への改造を取り上げる.直径40 〜80mm ,長さ400 〜800mm程度の丸棒ワーク10 数種類に対して,端面にタップ加工(ねじ穴M8 〜M12 )を行うための専用機の製作要求がある.設計制作のための時間,コストとも余裕がなく,一方,遊休状態の旋盤が1 台あり,これを利用することは可能である.

 このような条件の下で,旋盤の丸物芯だし機能と高剛性に着目し,旋盤改造による丸物端面タップ加工専用機の製作例を示す.図4 は汎用旋盤の図である.旋盤から刃物台,送り台,芯押台を取り去り,エプロン上に図5 に示すタレットヘッド付きドリルユニット(市販品)を取り付け,図6 に示すような専用機として旋盤を再生させた.この専用機を通常の方法で設計製作した場合は数百万円程度かかるが,本件のように旋盤を再利用すれば,半額以下のコストで製作可能でまた旋盤が高剛性であることから,高精度かつ耐久性の高い専用機を構成することが可能であった.

 

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図4 汎用旋盤の概略図

 

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図5 タレットヘッド付きドリルユニット

 

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図6 旋盤改造による専用機

 

 

 この事例のように既存機械を再利用,再生させる設計,進化型(可変型コンフィギュレーション)設計はコスト面,開発期間,リソースの有効利用という観点から有効であるが,設計内容は事例ごとに大きく異なり,設計アイデアに大きく依存する設計といえる.よって,このクラスの設計には設計アイデアの発想支援が有効である.

 設計アイデアの発想支援には,機能の詳細な内容を検討するための機能推論が必要となる.図7 に本事例における機能推論の様子を示す.遊休の中古旋盤には旋削,ドリル加工の機能があり,旋削機能のためには,回転,芯出し,送り,削りなどの機能が必要である.一方,丸物端面のねじ穴加工のためには,丸物穴加工とタッピング機能,さらに下位機能として,穴あけ,送り,丸物固定,芯出し,回転止めなどの機能が必要である.ここで,タッピング,穴あけ,送りの各機能はモジュールデータベースにあるタレットヘッド付きドリルユニットにより実現されるが,丸物固定の機能は別の機構を導入しなければならない.旋盤には丸物の芯出し機能があり,この点に着目すれば遊休旋盤に丸物固定機能を担わせた形態の専用機を着想することができる.

 

fig4.gif + fig5.gif = fig6.gif

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図7 進化型設計における機能推論

 

 

5 .おわりに

 進化型設計は,コスト,期間,リソースの再生・有効利用という観点から望ましいものであり,構造固定型コンフィギュレーションのための強力な設計解探索技術,構造可変型コンフュギュレーションのための発想支援システムが有効であることを示した.この検討結果を受けて,進化型設計技術の開発を進める予定である.

 

参考文献

 1 )Skalak,S.C.,White,M.,Teng,Y.,Using an Envolutionary Algorithm for Catalog Desigh, Research in Engineering Design,10 (1998 )63.
 2 )Imamura,S.,Sawada,H.An Object Oriented Language Introducing Biogenetic Algorithms, Int.Sym.System Life (1997 )191.
 3 )Marcus,S.,Stout,J.,McDermott,J.,VT:An Expert Elevator Designer that Uses Knowledge Based Backtracking,AI Magazine SPRING (1988 )95.
 4 )Yost,G.,R.,Configuring Elevator Systems, Human Computer Studeies,44,(1996 )521.

 

[発表者]

機械技術研究所 物理情報部 数理工学研究所 今村  聡

         imamura@mel.go.jp

[連絡先]

機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武

         Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033

         chisaka@mel.go.jp

 


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