「世界初!2足型脚車輪移動システムを開発」
[2足歩行型脚車輪ロボット Quick Time]
アニメーション:3段を4歩12秒で昇降
通商産業省 工業技術院 機械技術研究所
「発表の概要」
機械技術研究所ロボット工学部運動機構研究室では、脚の持つ障害物を乗り越える能力と車輪の持つ平坦地の省エネルギ・高速移動能力を兼ね備えた脚車輪移動システムの開発を行っている。
開発した2足型脚車輪移動システム(図a、図b)は、将来有望と考えられる2足歩行型の脚車輪ロボットに高速な階段昇降を実現させるための基礎研究用として試作した移動システムである。このシステムを用いて動的な軌道制御を行うことにより、「3段の階段を4歩約13秒で昇降(図c)」する階段昇降を提示することができ、屋内など狭い通路での省エネルギ・高速移動や階段、段差に対応できる「2足歩行型の脚車輪ロボット」の可能性を見いだすことができた。本システムの特徴は、接地している車輪で両脚のバランスをとりつつ、脚の長さを速やかに変え、次の一歩を進める機構と機能を有することであり、高速な階段踏破を目指した新しい脚軌道生成とそれを実現する制御方式を提示することができた。


図a 2足型脚車輪移動システムの全景 図b 2足型脚車輪移動システムの機構図面

図c 2足型脚車輪移動システムによる階段昇り
1.研究の背景
最近、人間と共存して安全に行動する人間共存型のロボットの実現を目指したさまざまな技術開発が試みられており、その中の重要な技術の1つとして、人間生活環境で人間と同様な縦長でホッソリとした構造で狭い通路を安全、安定かつ高速に移動可能なシステムの開発が重要視されている。また、マニピュレータ、コンピューター、バッテリーなどの搭載により、ロボットが縦長となり重心が高くなることが予想され、重心が高い位置にあっても制御が容易な制御方式の開発が望まれている。加えて、自立化のために搭載されるバッテリー容量が制限されるため作業場所までの移動の使用エネルギーが極力少ないことが要求されている。
このために、脚のもつ高い障害物(段差、階段など)を乗り越える能力(障害物踏破能力)と車輪のもつ高い平坦地の省エネルギ・高速走行能力(平地走行能力)の両方の長所を取り入れた「脚車輪システム」の実用化に向けた研究が実施されているが、これまでのシステムは、比較的幅広で重心の低い構造のものや、階段などの障害物を乗り越える時は重心位置の安定化を図るために構造変形に時間を要し速やかな乗り越えが困難なものが多かった。
2.研究の経緯
平成8年から実施している特別研究「動力学的行動による移動ロボットの自律性の構築」の研究の中で、屋内の狭い通路に対応できる比較的縦長の構造で、屋内の代表的な障害物である段差や階段を高効率かつ高速に踏破するための機構や制御手法の確立を目指した研究を実施してきた。
これまでに今回開発した方式の基礎として、「車輪型倒立振子」、「構造可変型4輪移動システム」などを試作し、移動ロボットの姿勢検出法や脚車輪移動システムによる動的な段差昇降に関する基礎研究を行い、未知の凹凸路面走行や約2秒での高速段差昇降などを実現してきた。
3.新しく開発した2足型脚車輪移動システム
今回開発した2足型脚車輪移動システムは、接地している車輪で両脚のバランスを取りつつ脚の長さを速やかに変え、人間が歩くように次の一歩を進める機構と機能を持つため、縦長でホッソリとした重心の高い構造で狭い通路を安全、安定かつ高速に移動可能なシステムになっている。また、従来開発した「構造可変型4輪移動システム」では、その構造上段差しか昇ることができなかったが、このシステムでは人間が昇るようなシーケンスで階段を昇ることができる。このシステムを用いることにより、脚のもつ高い障害物(段差、階段など)を乗り越える能力(障害物踏破能力)と車輪のもつ高い平坦地の省エネルギ・高速走行能力(平地走行能力)の両方の長所を取り入れた「脚車輪システム」の実用化に向けた設計指針と制御技術を確立することができる。
今回は、高速な階段踏破を可能にする新しい脚軌道生成とそれを実現する制御方式を開発し、この結果、3段の階段を4歩約13秒で昇降することに成功した。
3.1 2足型脚車輪移動システムの構成と機構
試作した2足型脚車輪移動システムは、脚先に同軸の2輪を備えた2本の脚が、股関節により結合された4輪の脚車輪移動システムである(図1参照)。股関節は2本の脚を前後方向に送り、脚は脚先と股関節までの長さを変え脚の長さを伸縮できる。同軸の2輪間の距離は充分長く、重心をまたいでいるため左右方向のバランスは保たれ、どちらか一方の脚で立つことができる。
車輪を回したり脚構造をマえるためのモータの数は、股関節の脚交叉用モータ1個(11W)、両脚の伸縮用モータ2個(23W)、両脚先の車輪回転用モータ2個(23W)の計5個である。それぞれのモータは角度センサとしてロータリエンコーダを内蔵している。また、両脚には傾斜角速度センサとしてレートジャイロが取り付けられている。


図1 2足型脚車輪移動システムの写真と機構図面
3.2 2足型脚車輪移動システムの階段昇降
このシステムによって階段を昇る場合の1歩分のシーケンスを図2に示す。全く逆の手順で降りることができる。このシーケンスを繰り返すことによって、連続した階段昇降を実現できる。

図2 階段昇りのシーケンス図
図2の1歩分の動作は以下の2つの運動制御を行うことによって実現できる。
・1)→2)、6)→7):両脚(4輪)接地状態での姿勢の変更
・2)→6):片脚(2輪)接地状態での後脚の引き上げと前方への振り出し
両脚接地での走行、姿勢の変更は4輪接地状態(安定状態)なので容易である。片脚接地の場合は脚先の2輪で全体を支えるため不安定な状態となり、制御が必要となる。後脚を引き上げる、壇上に振り出すなどの動作を高速制御するため、新しく「脚軌道生成・制御法」を考案した。これは、2足型脚車輪移動システムをモデル化して得られた運動方程式から、動力学的な干渉条件が存在することを導き出し、その条件を満たす形でシステム全体の動的軌道を生成・制御する手法である。この手法により、システム全体の運動が精密に制御され、車輪での連続した階段歩行が可能となった。2段の階段を昇らせた時の連続写真を図3に示す。

図3 2足型脚車輪移動システムによる階段昇り
3段を4歩で昇降
この実験では、4歩分の軌道制御を両脚(4輪)接地状態での重心位置移動運動を連続的につなぐことにより、図3の(1)から(4)までを約13秒で実現している。
4.本技術の応用分野、可能性
今回開発したシステムは、片脚接地の場合に接地車輪軸の真上近辺で重心位置を巧みに移動するが、この制御は重心が比較的高い位置にある方が容易となる利点がある。今後の人間生活環境で作業するロボットを想定した場合、マニピュレータ、コンピューター、バッテリーの搭載などにより、ロボットの重心が高く不安定な状態になることが予想されるが、「重心が高い位置にある方が制御が容易」という利点でこの点を克服できると考えられる。さらに、平地は車輪走行できるため、エネルギー効率の面で脚式を遙かにしのぎ、自立型ロボットでの使用も有望と考えられる。
5.今後の課題
今回開発したシステムには、コンピューター、バッテリーなどは搭載しておらず、また方向転換する機能が組み込まれていない。ステアリング可能な機構及びその制御などの採用や、重量物を運搬するような場合にバランスを取るために消費するエネルギー把握、またコンピューターやバッテリーの内蔵・搭載などによる自立化が課題として挙げられる。
6.関連文献
・松本 治、梶田秀司、西郷宗玄、谷 和男:"静的歩容を規範とした2足歩行型脚車輪ロボットの階段昇降制御"、日本ロボット学会誌、Vol.16、No.6、pp.868-875、(1998.8)
・Osamu Matsumoto, Shuuji Kajita, Muneharu Saigo and KazuoTani, "Dynamic trajectory control of passing over stairs by a biped type leg-wheeled robot with nominal reference of static gait", Proc. of 11th IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robot and Systems,(to appear) , (1998.10)
「英文概要(Abstract)」
「Development of the biped leg-wheeled mobile system」
The mechanism division of robotics department in MEL has developed the biped leg-wheeled mobile system that can negotiate stairs like legged locomotion and can travel fast on a flat plane like wheeled locomotion. This system is a new type leg-wheeled mobile system and can negotiate steps and stairs, which are typical indoor obstacles, with high efficiency and speed.
The newly-developed technology in MEL is the plan and control method of dynamic trajectories to realize the fast negotiation of stairs by the biped type leg-wheeled mobile system. Based on this technology, the biped type leg-wheeled robot negotiated a stair, which consists of three steps, using four walking steps within 13 seconds successfully. The results of the research demonstrate the possibility of the fast and dynamic negotiation of stairs by a leg-wheeled robot and are being used to develop a leg-wheeled robot that acts in human-shared spaces.
「発表者略歴」
発表者氏名:松本 治(まつもと おさむ)
年齢:34才
所属:ロボット工学部 運動機構研究室
入所:平成元年4月(入所10年目)
研究経歴:倒立振子型移動ロボット、アクティブサスペンション
などの車輪型移動ロボットの不整地踏破に関する研究
に従事。
「車輪型倒立振子、構造可変型4輪ロボットなどを試作
し、移動ロボットの姿勢検出法や車輪型システムによる
動的な段差昇降に関する基礎研究を行い、未知の凹凸路
面走行や約2秒での高速段差昇降などを実現してきた。」
電話:0298-61-7281 E-mail:matsumoto@mel.go.jp

2足型脚車輪移動システムの実験現場における発表者
問い合わせ先 機械技術研究所 統括研究調査官室
千阪文武/石塚一則
TEL 0298-61-7034
FAX 0298-61-7033
E-mail:chisaka@mel.go.jp
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