平成9年9月4日
分散ユニット機械の自己修復実験に成功
工業技術院 機械技術研究所
概要:生物の細胞に対応する機械ユニットを考案し,それによって機械システムを構成した.各ユニットは生物の遺伝子に相当する設計情報をもち,周囲のユニットと情報交換しながら結合をかえることができる.このユニットの集団は,協調して相互の結合状態を変化させ,様々な形状を創り出すことができる.さらに,一部のユニットが故障した場合,これを検出して自動的に切り離し,全体の形状を修復することもできる.今回この2つの機能について,実機ユニットによる実証実験に成功した.生物が持つ高度な自律分散機能である自己修復性を,初めて人工物において実現したことになる.
◆研究の背景
現代の人工物システムは,複雑化・巨大化の一途をたどっている.その結果,システムを設計し,製造し,保守するための負担が爆発的に増大するとともに,故障時には破局的な被害をもたらす危険性を秘めている.たとえば,航空機や原子力発電所などの巨大システムは開発に莫大な費用と長期間を要し,またその故障は社会全体に甚大な影響を及ぼす.このような問題を克服するためには,ものづくりのあり方を根本から問い直してゆく必要がある.
◆研究の視点
生物は人工物よりもはるかに複雑でありながら,きわめて柔軟なシステムであり,自己増殖,自己修復など人工物では実現できない機能をたくさん備えている.その秘密は,生物のからだがたくさんの似かよった細胞が寄り集まってできているという構造にあるのではないか.
そこで,生物のような細胞型,つまり「均質−分散的」なシステム構成に着目することによって,複雑な人工システムを構築するための方法論を考えてみようというのが,本研究の視点である.
◆システムの概要
生物のからだを細胞がつくるように,機械システムをたくさんの機械の細胞(ユニット)で構成する.ユニットはすべて同じであり(均質),互いの結合をかえる機能(構造可変)と近隣ユニットと通信する機能(近傍通信)を備えている.いわば「知能をもった動くブロック」である.
このようなユニットでシステムを構成することにより,
- 自己組み立て:システム全体の形状を自由に組み立てること
- 自己修復:こわれたユニットを正常なユニットでおきかえることにより,システム全体の形状を外力の助けなしに修理することが可能となる.
今回製作したユニットは,2次元的な機械システムを構成するためのもので,これを「フラクタム(fractum)」と呼ぶ.
[機械ユニットの基本機能]
- 電磁石と永久磁石の組み合わせによる着脱可能な6本の結合腕と,それを用いた結合変更機構(つなぎかえ,輸送,切り離しなど)
- ユニットごとに搭載したマイクロプロセッサによる情報処理
- 結合腕を介した隣接ユニット間の双方向光通信機能(6チャンネルのシリアル通信)
[諸 元]
- 直径:8cm
- 高さ:16cm(本体6cm)
- 重さ:400g
- 最大消費電流:900mA
- 搭載計算機:8ビットマイクロプロセッサ(10MHz)
◆機械の自己組み立て,自己修復とは
生物の細胞がすべて同じ遺伝子をもち,基本的にはどの細胞も等価な機能をもっているように,ユニットに搭載するプログラムはどのユニットでも同じとする.また,ユニットは隣りのユニットとしか情報を交換することができない.
このような前提のもとで機械システムが目標の形状を組み立てるための手法(アルゴリズム)と,組み立てた形状が破損した場合に,それを自動的に検知してもとの形状を修復する手法を開発した.その概略は次のようなものである.
1)ユニットのつながり方を表す記号を用いて,目標の全体の形状を表す設計図をいれておく.どのユニットに入れる設計図も同じである.
2)ユニットは近隣のユニットと通信して,自分のまわりのつながり方を調べ,自分のつながり方を設計図にある目標のつながり方に近づけようとする.
3)すべてのユニットがこれを同時並列的に行うことによって,次第に全体の形が目標のかたちになってゆく.
◆自己組み立て,自己修復の実験
はじめに,製作した2個のユニットを用いて,磁石と電磁石の組み合わせによる結合のつなぎかえ機能などを説明する.その後,11個の機械ユニットを用いて,自己組み立ておよび自己修復の実験を行う.
・自己組み立て実験
11個のユニットが目標の形状(3角形)を組み立てる.11番目のユニットは,故障ユニットのバックアップ用である.
・自己修復実験
できあがった3角形のうち,周上にある任意のユニット1個を故障させる.(実験では電源ラインを引き抜いて故障とする.故障ユニットのまわりのユニットは,光通信が途絶えたことを検知して,故障ユニットを吐き出す.その後,3角形の修復動作を行って,形状を回復する.
◆シミュレーション実験
100個以上の多数のユニットを含むシステムのシミュレーションも行っている.ここでは,ハードウェア実験で用いたアルゴリズムを発展させ,複雑な形状を段階的に組み立てる手法を採用している.ユニットに内蔵する設計図を変更することにより,さまざまな形状を組み立てたり,また,その形状を修復することができる.
◆期待される効果・応用
自己組み立てや自己修復の可能な機械システムは,環境に合わせた形状や機能の変更,人手によらない長期間の運用を可能とする.たとえば宇宙や海中など人間が近づけない危険な場所で使われる機械や,保守に緊急性を要求する機械に応用可能である.
◆新しい発想による次世代のものづくり
この機械ユニットは「機械の原子」ともいうべきもので,原理的にはこういったユニットを用いて,あらゆる機械が構成可能である.このような技術は世界的に見ても類例のない独創的技術である.もちろん,今回提案する手法は,まだ基礎的・原理的レベルにあり,これを実用に耐える方法論に鍛えてゆくためには,まだまだ多くの課題を解決してゆく必要がある.しかし,ここで開発されたハードウェア技術,および自己組み立てや自己修復のソフトウェア技術は,分散機械システムの基盤技術として普遍的なものを含んでいると考えられる.
◆今後の課題
・3次元ユニット
・マイクロ化
など
☆ 問い合わせ先
通商産業省 工業技術院 機械技術研究所
物理情報部システム工学研究室 村田 智
e-mail:murata@mel.go.jp
統括研究調査官 千阪 文武
TEL 0298-61-7049
e-mail:chisaka@mel.go.jp
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