National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) This page is a page of the former research institute. We stopped updating on March 31.2001.
E-mail to webmaster (Japanese) E-mail to webmaster (English)

平成9年11月11日

数ミクロンの微小部品の組立に成功

−微量接着剤塗布によるマイクロ接着−

 

microhand2.gif

microhand1.gif

 

1.背景
 機械技術研究所は、世界で初めてマイクロハンドと微量接着剤塗布技術を併用して微小部品の組み立てに成功した。1例として今回作製した「世界で最小の25ミクロンのマイクロかかし」を公開した。
 電気回路が半導体集積回路技術により、年々集積度を上げ、微小になって行くことに伴い、機械部品さえも微小化し、システム全体の大きさを微小化するといった要求が高まっている。医療分野における低侵襲治療器具(カテーテルなど)の微小化ならびに高度化、人工臓器の小型化、宇宙航空分野における衛星部品の小型化、更には家電情報機器の小型化といったものである。これに対し、当所では国家プロジェクトであるマイクロマシンプロジェクト「産業技術開発制度マイクロファクトリ技術開発評価」の一環として、微小機械システム作製のための、微小部品を組立操作可能なマイクロマニピュレーションシステムの研究開発を行ってきた。

2.開発の概要
 本研究グループは微小対象物を操作できる二本指マイクロハンド機構の研究開発を行い、現在までに数ミクロンサイズの微小対象物の把持、回転、解放といった操作を実現した。この度当所が開発した技術は、数ミクロンサイズの微小部品の接着組立を可能とするための、部品と同サイズもしくはそれ以下の微量な接着剤を塗布する技術である。この技術と二本指マイクロハンド機構を利用することにより、数ミクロンサイズの微小立体構造物の接着組立に成功した。従来、半導体プロセスを利用した平面的な構造物の作製のみに限定されていたが、この技術を用いることにより様々な立体的な構造物の作製が可能となり、複雑な機械システムの微小化がより加速されると期待できる。

3.開発の内容
 当所ロボット工学部自律制御研究室では、マイクロマシンの組立、バイオテクノロジーでの細胞操作、医療分野でのマイクロ外科手術などへの応用をめざし、微小対象物を容易に操作組立できるマイクロマニピュレーションシステムの開発を行ってきた。

3.1 二本指マイクロハンド機構
 操作部であるハンド機構は、パラレルメカニズムを使った二本指機構であり、数ミクロンサイズの微小物体の把持、回転、解放といった、我々が箸で物を操作するような基本的操作を可能としている。特にこのサイズの物体の回転操作は他に例を見ない。各指の駆動機構はパラレルメカニズムという機構を利用している。この機能は、コンパクトながら多自由度の動きと高精度な位置決めを可能とするといった特徴を持つ。現在のハンドの作業領域は586μm *×586μm ×52μm 、またその分解能(制御できる動作の最小距離)は0.1μm以下と極めて精度の高いものである。二本指マイクロハンド機構では、二組のパラレルメカニズム(各駆動リンクが手先に並列に結合された機構)を直列に設置し、中間プレートに一指、上部プレートに一指が取り付けられている。(Fig. 1) この構成により、本二本指マイクロハンド機構は以下に示す箸の操作を模倣するように設計されている。
 箸のほとんどの操作は,親指側の1本は手に固定された状態,すなわち手全体の動きに固定された状態で、人差し指側で操作する1本が器用に動くことによって行われる。即ち、箸による、対象物の把持や回転,加工などの細かい操作は,人差し指側の1本が親指側の1本に対して相対運動を生成することによりなされる。親指側の1本は,固定された状態で,人差し指側の1本の補助的な役割を果たしているに過ぎない.一方、対象物の移動に関しては、手全体を動かすことにより実現している。二本の箸の役割を分担することにより,我々は様々な操作を器用にこなすことができる(Fig. 2).

3.2 微量接着剤塗布技術
 微小構造物の製作のためには、操作技術に加え、組み立てる際の接合技術の確立が要求される。接合には様々な手段が考えられるが、素材による制限を受けにくい接着剤による接合を検討してきた。ここでのキーテクノロジーは微量の液体(接着剤も含めた)塗布の実現である。対象となる部品は数ミクロンサイズであるため、それらを接着する接着剤の量も、同サイズもしくはそれ以下が要求される。
我々は、中空で内側にガラス繊維が入っているガラス針を使用し、圧力で吸引するのではなく、毛細管現象を利用し、希望量の液量を取り出した。直径1[mm]の内側にガラス繊維が入っているガラス管を熱し、引き延ばして先端の径を数μm程度に先鋭化する。この先端を塗布する液体に接触させると、内部のガラス繊維による毛細管現象で液がガラス針の内部に入ってくる。この浸入速度は十分目視できる程度(数μm/秒)である。顕微鏡観察により、希望量の液滴が針に入ったときに液体から針を離せば任意の液量が得られる。その後、目的とする位置にガラス針末端を移動し、適当な圧力を加え針内の液体を全て押し出す(Fig. 3)。 これにより最小直径2μmの極微量な接着剤の液滴を再現性よく、かつ高精度な位置決め精度で得ることができた。注入量と液滴の直径の関係はFig. 4の通りである。
  *:1μm=1/1000mm

3.3 微小対象物接着組立
 前節の技術を組み合わせ、微小構造物の立体組立を行った。システム構成はFig. 5の通りである。接着剤は紫外線硬化剤を用いた。先ず、上記の方法により微量な接着剤を塗布する。二本指マイクロハンドで微小対象物を操作し、塗布した接着剤の位置に組み付ける。紫外線を照射することにより接着剤が硬化する。その後、接着した微小対象物上に接着剤を塗布すれば、さらに積み上げることが可能となる。

4.これまでの技術との比較
 従来の微小対象物を扱うマニピュレータは、並進3自由度機構のものにピンセットのようなグリッパを取り付けたもので単純な作業を行うのみであった。この場合、数百μm以上の大きさであれば、重力の影響がある程度残っているので、物の解放は比較的容易である。しかしそれ以下の微小な物体では、種々の表面間力の影響を減少させる何らかの工夫が必要となる。さらにグリッパ型では微小物体の回転といった、姿勢まで含めた位置決め制御は困難であった。パラレルメカニズムによる二本指マイクロハンドはこれらの問題を解決する手法として有効である。
 微量液体塗布に関しては一般に注射器のように管内の圧力を制御しながら、希望の液量を吸引し、押し出す方法がある。しかし圧力の制御が困難で微量な液体を得ることは困難であった。ここで開発した技術では圧力の吸引ではなく毛細管現象を利用しているので、希望の液量を容易に取り出すことができる。そのため塗布の際は適当な加圧だけで十分であり、圧力制御の必要がない。
 従来の微小構造物は半導体プロセスで利用されるエッチング技術を応用したものが主で、平面的な構造物であり素材も限定されていた。しかし本接着技術と二本指マイクロハンド機構を組み合わせることにより、さらに複雑で立体的な機械システムを作製する可能性が生まれる。

5.本技術による作業例(図の説明)
Fig.6:二本指マイクロハンドを使い、直径2μmのガラス球を操作。写真の大きさが髪の毛の太さ程度。
 微小世界では、重力の影響以上に、分子間力、静電気力、表面張力の影響が強く、一般に物体が指先に付着して離れない現象が起こる。しかしパラレルメカニズムを利用した駆動機構により、箸のような器用な操作が可能であるため、一方の箸で対象物を箸先に押しやる動作で、容易に対象物を離すことができる。(箸で納豆を扱うのと同じ)
 Fig.7:二本指マイクロハンドを使った、直径10μmの人間の白血球操作
 Fig.8:ガラス基盤上に直径5μmのガラス球を文字状に接着
 Fig.9:身長25μm、1/40mmのマイクロかかし。直径5μmのガラス球を3つ、接着しながら積み上げ、その上に棒状のファイバを接着、さらに両端に横からガラス球を接着、最後に頭となるガラス球を接着。

6.本技術の応用分野
 現在、半導体プロセス技術を利用し、微小機械システムの作製が盛んに行われているが、立体的な微小システムを作製することは困難である。本技術を利用することにより、従来困難とされた立体的な微小構造物の作製が可能となる。これにより、第一節で述べた、医療機器や家電情報機器の更なる微小化が図られる。また現在の産業内における用途では微小部品の接着、すなわちハードディスクヘッドの接着や、光学系微小レンズの接着といったものが挙げられる。それ以外にも微量液滴塗布技術という面からは、化学産業において、反応速度の高速化、再現性の向上のための微量の試薬実験システムなどの応用も考えられる。

7.今後の研究方向
 今後、より複雑な機械システムの作製のため、マニピュレーションシステムの高度化を図っていく必要がある。遠隔操作における操作性の向上やオートメーション化への展開を考慮すると、微小力制御系と高度な視覚システムの付加が必要である。そのため微小世界内におけるnNオーダーという微小な力の計測技術、ならびに高倍率でかつ広い焦点深度を得る、もしくは立体的に微小対象物を確認できる高度な視覚システム技術の確立が今後の大きなテーマである。

8.関連文献
・Tamio Tanikawa, Tatsuo Arai, Masami Saeki, "Two-Finger Micro Hand", Proc. IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp.1674-1679, May 21-27, 1995
・Tamio Tanikawa, Tatsuo Arai, Takanori Masuda, "Development of Micro Manipulation System with Two-Finger Micro Hand", Proc.IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robotics and Systems, pp. 850-855, Nov. 4-8, 1996
・谷川民生、新井健生:"二本指マイクロハンドの設計と微細作業"、日本ロボット学会誌、Vol.15, No. 2, pp. 284-289,(1997)
・新井健生, 谷川民生, Rene Larsonneur:"マイクロハンドを構成するフィンガーモジュールの機構と制御",日本ロボット学会誌, Vol.15, No. 3, pp. 402-407,(1997)

 


☆ 問い合わせ先
  通商産業省 工業技術院 機械技術研究所
    ロボット工学部 自律制御研究室 谷川 民生
     e-mail:tamio@mel.go.jp
    統括研究調査官 千阪 文武
     TEL 0298-61-7049
     e-mail:chisaka@mel.go.jp
 
 戻る