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平成10年6月1日


液体自身を弁として使う双方向マイクロポンプの試作に成功

ポンプの原理

通商産業省 工業技術院
機械技術研究所

1.発表の概要

 新しい整流原理を利用したマイクロポンプを考案し、シリコンベースの微細加工技術によりデバイスを試作(図1)してその有効性を確認した。開発したポンプは圧電アクチュエータで発生した圧力変動を、温度による液体の粘性変化のみを利用して整流するため、可動部を持たず、従来問題となってきた摩耗や疲労の問題がない。また製造プロセスが比較的単純なことから、低コスト化が期待できる。さらに、単一のデバイスで双方向に流れを発生できるという特色がある。インシュリンなどの薬剤を投与する体内埋め込み用医療機器や、超小型高性能化学分析装置、あるいは微量試料対応型分析装置などへの応用が期待できる。


図1.試作したマイクロポンプ


 中央の六角形のポンプ室に、弁として働くヒーター付き流路が2本つながっている。
 ヒーター上部の隙間は5マイクロメートルと狭くなっているので、流体の粘性で流れに抵抗が生じるが、加熱すると粘性が低下し流れやすくなる。ヒーターのON/OFFで流れやすさが変化し弁の働きをする。
 ポンプ室底面のシリコン薄膜を圧電素子によって振動させ、ポンプ室内に圧力変動を発生する。この圧力変動に合わせてヒーターの加熱・冷却による粘性変化を繰り返し、液体を送る。


2.研究の背景

 液体操作機器のマイクロ化は、体内埋め込み用医療機器や超小型化学分析装置などへの応用が期待でき、マイクロマシン技術の中でも特に期待されている分野である。その中でも、液体を搬送するためのマイクロポンプの開発が重要な課題となっている。しかし、従来の機械的な可動弁を持つ構造では摩耗や疲労の問題が避けられなかった。また、流量や流れ方向を単純な機構で自由にコントロールできるものはほとんどなかった。


3.研究の視点

 マイクロスケールの世界では、液体の粘性や表面張力などが流れに与える影響が、通常のスケールの場合に比べて非常に大きくなる。こうした液体の性質を積極的に利用することで、シンプルな構造と高い信頼性を備えた液体操作機器を実現できる可能性がある。


4.ポンプの基本原理(図2)

 水やエチルアルコールなどの液体の粘性は温度が上がると小さくなる。このポンプでは、入口と出口の流路内の液体を交互に加熱・冷却することで、いずれか一方が他方より流れやすくなるようにする。これをシリコン膜に圧電素子を接着した圧電アクチュエータによる圧力変動にあわせて高速で繰り返すことによって、正味の流れが得られる。加熱のタイミングを変えるだけで、逆方向にも液体を流すこともできるのが特色である。



図2.ポンプの動作原理


 ポンプ室底面のシリコン薄膜は、接着された圧電素子への電圧をON/OFFすることにより、上下に振動する。ポンプ室の入口と出口には、流路を狭く絞った部分があり、ヒーターのON/OFFで加熱・冷却ができるようになっている。

吐出時

圧電素子の電圧をONにすると、シリコン薄膜が上に反る方向に変形し、ポンプ室の圧力が上がり、液体が両方の流路へ流れ出す。このとき出口側のヒーターのみをONにすると、その部分の液体の温度が上がり、粘性が小さくなる。入口側は温度が低く、粘性が大きいため、液体は出口側により多く流れる。

供給時

圧電素子の電圧をOFFにすると、ポンプ室の圧力が下がり、液体が両方の流路から入ってくる。このとき入口側のヒーターのみをONにすると、吐出時と同様の理由で、液体は入口側からより多く流入する。


以上を繰り返すことにより、入口側から出口側に正味の流れが生じる。逆方向に流す場合は、各ヒーターによる加熱のタイミングを逆にするだけでよい。


5.試作デバイスの構造(図3,4)

<シリコン基板の加工>
 シリコン基板を深さ60マイクロメートル エッチング加工(溶解除去)し、ポンプ室(底面13×7mm)と流路(幅0.5mm)を作製した。
<ヒーター部の加工>
 ヒーター部への配線を兼ねてシリコン基板に予めホウ素を拡散し、流路の中に50マイクロメーター幅の仕切りを残した。この部分に形成されたホウ素拡散層が電気抵抗ヒーターとして作用する。
<パイレックスガラスの加工>
 パイレックスガラスのヒーター部に天井部分として対面する部分を流路として5マイクロメートルの深さだけエッチングした。
<シリコン基板とパイレックスガラスの接合>
 流路とポンプ室を加工したシリコン基板とヒーター部流路を加工したパイレックスガラスを張り合わせた。
<ポンプ室の圧電アクチュエータ>
 液だめとなるポンプ室の底面は逆側からも掘り下げられ、薄いシリコン膜となっている。この膜に圧電素子を張り付け、圧電アクチュエータを構成させた。圧電素子に電圧をかけると縮みバイメタルのようにシリコン膜部分がたわみポンプ室の容積が変化する。




図3.試作したマイクロポンプの構造




図4.流路のヒーター部分の拡大図


 ヒーター部は幅 0.5mm、長さ50マイクロメートル。シリコン表面にホウ素を拡散させて作成した。流路は幅 0.5mmで、ヒーター部分を残して60マイクロメートルの深さまでエッチングすることにより形成した。


6.動作確認実験

 水とエチルアルコールを使って実験を行い、ポンプ動作を確認することに成功した。圧電アクチュエータの駆動周波数は45〜160Hz(サイクル/秒)、駆動電圧は40〜60V。ヒーターも同じ周波数で、パルス持続時間と電圧を変えて流量を測定した。今回の実験で得られた最大流量は5.5マイクロリットル/分(約0.1mm3/秒)であった。また、逆方向のポンプ動作も確認した。


7.期待される効果・応用

 インシュリンの投与など、体内に埋め込み可能な小型の微量薬剤投与用医療機器や、一つのチップ上で各種の化学分析を行う超小型化学分析装置などへの応用が期待される。



図5.医療用化学分析装置のマイクロ化の例



(化学分析機器のマイクロ化は、流路内での拡散や壁面からの溶出の低減により分解能の向上が期待でき、また必要試料の低減も可能となるため重視されている。このマイクロ化のためには試料を輸送するマイクロポンプの開発は避けられない重要な課題である。)

 


☆ 問い合わせ先
  通商産業省 工業技術院 機械技術研究所
    極限技術部 量子技術研究室 松本 壮平
     e-mail:sohei@mel.go.jp
    統括研究調査官 千阪 文武
     TEL 0298-61-7049
     e-mail:chisaka@mel.go.jp
 
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