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平成13年2月19日
経済産業省産業技術総合研究所
機械技術研究所
統括研究調査官室




湿式切削用工具切刃モニタリング
システムの開発

ーー切削液中の回転刃先の状態を直接観察ーー

機械研NEWS,2001,No.1より

機械研NEWS textfile

機械技術研究所 生産システム部 生産情報研究室
澤井 信重


<ポイント>

工具の摩耗,チッピングの詳細な観察が可能
透明度の高いケミカルソリューション型切削液を使用
グラスファイバー,高透明度切削液を通じて照明
回転中の工具切刃を閃光(1μsec)を使用して仮想停止
工具切刃と切り屑の状態を約70mm離れた状態で観察可能

<概 要>


 エンドミル加工では工具の摩耗や欠損が品質や生産性に大きな影響を与える.最近では,加工中に工具摩耗やチッピングをいち早く見つける「インプロセス診断」の研究が盛んになっている.その主な方法は,異常音響や切削力の変動などの他の物理現象を検出して工具の摩耗やチッピングを診断する,いわゆる間接法である.この間接法は,センサの設置場所を選ばない長所を持つが実時間信号処理にかかる負担が大きく検出感度や精度,信頼性などで不十分なことも多い.このため,直接工具の摩耗やチッピングをモニタリングできる手法の開発が求められている.

 今回開発した観察方法は,これまで刃先の観察の障害とも考えられてきた切削液を積極的に活用することにより可能となったもので,現場での湿式切削用の工具切刃の摩耗やチッピングが直接観察できる実用的な方法である.





fig1.jpg
図1湿式切削用モニタリング装置
  • 画像取得部: ITVカメラ,切削液供給用ノズル,切削液供給用ポンプで構成
  • 摩耗計測システム部: パーソナルコンピュータおよびフレームメモリで構成
  • 画像処理: 二値化,ノイズ除去,摩耗境界追跡により高精度な工具摩耗量を計測






  • 表1切削液の種類
    table1.jpg
  • 切削液注入ノズルと工具切刃間の切削液噴流を光路にする
  • 本目的に適切と思われる透明度の高い切削液を表1から抽出






  • fig2.jpg
    図2ITVカメラ用レンズとノズルの詳細図
  • 切削液注入ノズル内: フィルター窓で防水したITVカメラと照明用グラスファイバーを設置
  • 照明: ストロボスコープからグラスファイバーを通じて行う






  • fig3.jpg
    図3切削液の希釈倍率と観察可能な距離(l)
  • 摩耗が確認可能な距離(l)と切削液の希釈倍率を測定
  • 切削液の希釈倍率: 50倍の希釈倍率(新油剤)
      エマルジョン型切削液では I=0mm
      ソリューブル型切削液では I=約35mm
      ケミカルソリューション型切削液では  I=約70mm






  • fig4.jpg
    図4切削液の透明度の影響
    切除液:ケミカルソリューション(50倍希釈)
  • 工具切刃とノズルまでの観察距離をl=30mmからl=100mmまで変化させたときの工具切刃画像
  • ケミカルソリューション(50倍希釈)ではl=70mmまで工具切刃を鮮明に観察可能






  • fig5.jpg
    図5切削中における工具切刃のモニタリング
    主軸回転数:N=1,000rpm
    工具:2枚刃エンドミル,工具径:10mm
    被削材:S35C,切削液:ケミカルソリューション型(50倍希釈)
    切り込み:d=1.5mm,軸方向切り込み:W=4mm,切削送り:f=0.1mm/tooth
    ストロボスコープ:閃光時間1μsec,観察距離(l):70mm

  • 回転中の工具切刃をストロボスコープ(閃光時間=1μsec)を使用して仮想停止
  • 工具切刃周囲の液中気泡の状態が観察可能
  • 工具切刃すくい面上の切り屑の状態が観察可能
  • 切り屑のカール状態により工具切れ刃のチッピングを観察
  • 切削液ノズルを切削送りの反対側に設置して切削加工中切刃の状態観察






  • fig6.jpg
    図6非切削中における工具切刃のモニタリング
    切削条件:図5と同じ
  • 工具切刃に生じる摩耗やチッピングの発生状態の詳細が観察可能









  • 湿式切削用工具切刃モニタリング
    システムの開発


    機械技術研究所 生産システム部 生産情報研究室
    澤井 信重
    TTEL:0298−61−7234



    <概 要>
    機械研NEWS,2001,No.1より




    1.まえがき

     エンドミルを用いた加工において,摩耗や欠損などの工具損傷が品質や生産性に大きく影響する.そこで最近では,一刻も早く工具摩耗やチッピングを見つけるために,インプロセスで診断を行う方法の研究が盛んに行われている.しかしそれらの方法は,加工環境の問題からAEや切削力など他の物理現象を介して工具摩耗やチッピングを診断する,いわゆる間接法が大半である.間接法は,センサの設置場所を選ばないので容易に測定が行えるという長所を持っている.しかし,信号処理にかかる負担が大きくなったり,検出感度や精度,信頼性などで不十分なことも多い.そのため,直接工具摩耗やチッピングがモニタリングできる手法の開発が求められている.

     今までにITV カメラを利用した工具摩耗やチッピング等を直接的に観察や計測する手法は,多くの研究者らにより開発が行われている1)〜6).しかし,これらの装置はいずれも乾式切削用であるために加工分野が非常に限られ実用化されていない.そこで,生産システム部生産情報研究室では,湿式切削時の切削液を積極的に活用することにより,従来不可能とされていた湿式切削加工においても工具の劣化状況を直接観察したり計測することができる湿式切削用工具切刃モニタリングシステムを開発し,実用化を図った.



    2.装置の説明

     湿式加工において工具観察が困難な理由は,切削液の不透明さと切削液表面における光の散乱屈折による像の乱れにある.本システムは切削液の噴流の中を通じて工具を観察することによって後者の影響を排除し,鮮明な工具像を得るものである.図1にITVカメラを用いた湿式切削用工具切刃モニタリング装置の全体を示す.開発した装置は,画像取得部と工具画像を計測する摩耗計測システム部で構成した.画像取得部は,マシニングセンタ上(主軸回転数60〜3,000rpm)にITVカメラ,切削液供給用ノズル,切削液供給用ポンプで構成した.摩耗計測システム部は,パーソナルコンピュータおよびフレームメモリで構成し,二値化,ノイズ除去,摩耗境界追跡等の画像処理を行うことにより高精度で工具摩耗量の計測を行うことができる5),6).図2は,湿式切削用工具切刃モニタリングシステムの重要な機能であるノズルとレンズの詳細図である.同図に示すようにノズル内にはフィルターで防水を施してあるITVカメラ(接写レンズ付)と工具切刃の照明用グラスファイバーが設置されている.またグラスファイバーの一端には照明用ストロボスコープが取り付けられている.

     切削液の噴出条件を適切にすることにより工具像が噴流中を乱されることなく通過し,噴流中を通ってきた工具画像を観察することができる.また,工具回転に同期してストロボスコープを閃光させ,可視的に回転中の工具を仮想停止させることが可能である.仮想停止状態の工具切刃からは切削中に生じる工具の摩耗,チッピングおよび欠損等の劣化状況を直接的に観察することができる.また切り屑の状態変化やバリの発生等によっても切削状態を詳細に観察することができる.
    fig1.jpg
    図1湿式切削用モニタリング装置


    fig2.jpg
    図2ITVカメラ用レンズとノズルの詳細図




    3.切削液の選択

     本装置は作業者が湿式切削中の工具切刃を直接的に観察することを主目的にしている.そのためモニタ上で工具切刃を詳細に観察することが可能な鮮明度の良い画像を取得することを必要とする.

     一般に使用されている湿式切削用の切削液は表1に示すように不水溶性切削液と水溶性切削液に分類される.本装置は前述した図1に示すようにノズルと工具切刃間の切削液噴流を光路にする構造のため透明度の高い切削液が必要である.

    表1切削液の種類
    table1.jpg

     そこで本目的に適切と思われる透明度の高い切削液を表1から抽出した.まず切削液として一般的に広く使用されている不水溶性切削液から軽油とマシン油,水溶性切削液からエマルジョン型,ソリューブル型およびケミカルソリューション型を対象に切削液の希釈倍率と透明度および使用状況等について検討した.その結果,軽油とマシン油はそのもの自体の透明度が悪く,エマルジョン型は乳白色をしているために希釈倍率を高くしても透明度が改善されないため,使用することができない.

     これに対し,ソリューブル型切削液およびケミカルソリューション型切削液は,水で希釈することにより透明または半透明となり,透明度が非常に高いことから,表1に示した切削液の中では本装置の使用目的に最も適した切削液であることがわかった.

     さらにソリューブル型切削液およびケミカルソリューション型切削液について希釈倍率と透明度の関係および切削液の成分等について調べた.図3に示すように作業者がITVモニタ上で工具切刃の輪郭や切削中に生じる摩耗等を確認する事ができる距離(l)と切削液の希釈倍率について測定を行った.その結果,通常の切削加工において最も多く使用している50倍の希釈倍率(新油剤)では,エマルジョン型切削液は不透明のため0mm,ソリューブル型切削液は約35mm,ケミカルソリューション型切削液は約70mmとなり,ケミカルソリューション型切削液はソリューブル型切削液と比較してノズルと工具切刃までの観察距離が約2倍となっている.

    fig3.jpg
    図3切削液の希釈倍率と観察可能な距離(l)

     また,ソリューブル型切削液は,界面活性剤および極圧添加剤等が多量に含まれているため,工作機械の摺動面上の油剤が切削液中に溶け込み使用時間とともに切削液の透明度が悪くなる.ケミカルソリューション型切削液は,界面活性剤の成分がないために工作機械の摺動面上の油剤が溶け込まずに分離し,切削液面上に浮上している.油面に浮上している油剤はフィルターまたは浮上油回収装置等により回収することが可能であるため,長時間使用した場合でも切削液の透明性が悪くならないことが判明した.したがって,ケミカルソリューション型切削液はソリューブル型切削液よりも透明度が高い点と長時間使用しても透明度が下がらない点でも非常に有利なため,本実験では,ケミカルソリューション型切削液を用いることにした.

     図4はケミカルソリューション型切削液の希釈倍率を50倍にして使用した時の,工具切刃とノズルまでの観察距離をl=30mmからl=100mmまで変化させたときの工具切刃画像について示した.同図に示すようにl=70mmまで工具切刃を鮮明に観察することが可能である.

    fig4.jpg
    図4切削液の透明度の影響
    切除液:ケミカルソリューション(50倍希釈)

     図5は切削中(主軸回転数N=1,000rpm,切り込みd=1.0mm,送りf=0.1mm/tooth)の切刃状態を示した.同図に示すように,回転中の工具切刃をストロボスコープ(閃光時間=1μsec)を使用して仮想停止させることにより,切削中の工具切刃状態を詳細に観察することができる.図中の工具切れ刃の周囲に切削液の気泡が多少存在するが,工具切刃のすくい面上にある切り屑の状態を観察することが可能であり,切り屑のカール状態により工具切れ刃のチッピングを観察することができる.また,切削液ノズルを切削送りの反対側に設置することにより切削加工中の工具切刃の状態を詳細に観察することができる.図6-aは,正常な工具切刃,図6-bはチッピングしている状態,図6-cは,横逃げ面摩耗(VB)が生じている状態を示した.同図に示すように工具切刃に生じる摩耗(VB)やチッピングの発生状態を詳細に観察することが可能である.
    fig5.jpg
    図5切削中における工具切刃のモニタリング
    主軸回転数:N=1,000rpm
    工具:2枚刃エンドミル,工具径:10mm
    被削材:S35C,切削液:ケミカルソリューション型(50倍希釈)
    切り込み:d=1.5mm,軸方向切り込み:W=4mm,切削送り:f=0.1mm/tooth
    ストロボスコープ:閃光時間1μsec,観察距離(l):70mm

    fig6.jpg
    図6非切削中における工具切刃のモニタリング
    切削条件:図5と同じ




    4.あとがき

     通常のITVカメラを使用して湿式切削中の状態を撮影した場合には,工具切刃は切削液で覆われているため,切れ刃を直接に観察することができない.湿式切削における工具切刃モニタリングシステムは,透明度の高いケミカルソリューション型切削液を使用することにより工具切刃とノズルが約70mm離れた状態でも鮮明な画像を観察することを可能にした.切削加工を行う作業者はITVカメラで捉えた工具切刃画像によって工具摩耗,チッピング等の工具切刃の劣化を詳細に観察することができる.



    参考文献

    1. 宮坂金佳,澤井信重,村田良司,”高信頼性切削工具系の開発”機械学会,Vol.51,No.463,C.
    2. 佐田登志夫,”ITVカメラによる切削工具の摩耗形態”,精密工学会,春季大会,(1976年),P129-130.
    3. 粕川乙彦,”工具切れ刃の測定”精密機械,Vol42,2,(1976年),p.106‐112.
    4. D.J.Tlusty,G.C.Andrews:"Acriticalreviewofsensorsforunmannedmachining",「AnnalsoftheCIRP」,Vol32,2,(1983年),563-572.
    5. 澤井信重,宮坂金佳,村田良司,"画像処理による切削工具摩耗の計測",精密工学会秋季大会,(1989年).
    6. 澤井信重,宋浚,朴和永,"画像処理による工具摩耗の自動計測システムの開発",「精密機械」,Vol61,3,(1965年),p368-371.


    [発表者]


    機械技術研究所 生産システム部 生産情報研究室 澤井 信重
    TEL:0298−61−7234


    [連絡先]


    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
    Tel:0298-61-7034,Fax:0298-61-7033
    chisaka@mel.go.jp






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