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平成12年12月12日
通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


SUS304の結晶粒極微細化による
超塑性挙動の改善

機械研NEWS,2000,No.9より

機械研 NEWS text file

機械技術研究所 基礎技術部 材料設計研究室
加藤 正仁



<ポイント>
単相ステンレス鋼の通常加工熱処理では結晶の微細化は10μmをわずかに下回る程度
変態挙動を伴う加工熱処理でSUS304は,1μm以下の微細化が可能
構成結晶の大部分の粒径が約200nm以下となることも確認

<概  要>

 従来,準安定オーステナイト系ステンレス鋼における加工熱処理を利用した結晶粒微細化処理は,ホール・ヘッチ則による耐力向上を目的として研究が行われてきた.機械技術研究所基礎技術部材料設計研究室では,この加工熱処理法による結晶粒微細化によってSUS304が超塑性現象を発現することを見いだした.

 単相ステンレス鋼では「塑性加工による転位導入とそれに続く再結晶」という通常の加工熱処理では,結晶粒径を10μmをわずかに下回る程度にしか微細化できないが,変態挙動を伴う加工熱処理を利用すれば,SUS304でも結晶粒径を1μm以下に微細化することが可能になる.



 構成結晶の大部分の粒径が約200nm以下となることを確認しているので引張試験片が採取できる程度の大きさの試料制作を準備中である.

 

fig1

図1 結晶粒微細化加工熱処理の基本単位

  •  

    表1 化学組成(mass%)

    table1

  •  

    fig2a

    図2(a) =S材= 加工熱処理工程とTEM組織

  • S材)加工熱処理単位を1度だけ加えたもの
  • 厚さ10mmより1mmに冷間圧延した後に焼なまし(973K×1h)
  •  

    fig2b

    図2(b) =D材= 加工熱処理工程とTEM組織

  • D材)加工熱処理単位を2度加えたもの
  • 厚さ100mmの母材に冷間すえこみ及び圧延を加えて厚さ10mmとした後に焼なまし(973K×1h)を加える
  • これを1mmに冷間圧延後に焼なまし(973K×30min)  
  •  

    fig2c

    図2(c) =T材= 加工熱処理工程とTEM組織

  • T材)加工熱処理単位を3度加えたもの
  • 30mm×30mmの角材を向きを変えながら冷間繰り返しすえこみし,焼なまし(973K×1h)
  • さらに向きを変えながら冷間繰り返しすえこみして,焼なまし(973K×30min)
  • これより厚さ10mmの圧延用小片を切り出し厚さ1mmまで冷間圧延し,焼なまし(973K×7min)
  •  

    fig3

    図3 引張試験片形状

  •  

    fig4

    図4 高温引張試験結果(試験温度973K)

  •  

    fig5

    図5 加工熱処理の基本単位を4度加えたときのTEM組織

  •  

     


    SUS304の結晶粒極微細化による
    超塑性挙動の改善

    機械技術研究所 基礎技術部 材料設計研究室
    加藤 正仁
    TEL:0298−61−7180

     

    <概 要>

    機械研NEWS,2000,No.9より


     

    1 .はじめに

     金属材料などの中に,適当な温度ひずみ速度条件で引張ると,破断するまでに,もとの長さの何倍にも伸びる(伸びが数百%)ものがある.このような挙動を超塑性という.超塑性には材料の相変態に起因する変態超塑性と,材料を構成する微細な結晶粒の粒界すべりに起因する微細結晶粒超塑性に大別される.微細結晶粒超塑性を発現する材料では結晶粒径が数μmあるいはそれ以下と著しく細かい.

     現在までにAl,Cu,Zn,Ti,Ni系合金といった非鉄系合金では活発に微細結晶粒超塑性が研究され,一部では実用化が図られている.また,高炭素鋼あるいは高炭素特殊鋼でも微細結晶粒超塑性について報告されている2,4).しかしながら,低炭素鋼や低炭素特殊鋼ではその報告例は著しく少ない.

     一般に18−8ステンレス鋼と称されるSUS304はオーステナイト系ステンレス鋼の中でも最も一般的に使用されている鋼種である.この鋼種を含む単相ステンレス鋼においては長年,微細結晶粒超塑性は発現しないとされて来た.

     その最大の理由は,単相ステンレス鋼では「塑性加工による転位導入とそれに続く再結晶」という通常の加工熱処理では,結晶粒径が10μmをわずかに下回る程度にしか微細化できないことである.

     しかし例外的に,次に述べる変態挙動を伴う加工熱処理を利用すれば,SUS304でも結晶粒径が1μm以下に微細化することも可能になる.

     この鋼種は,オーステナイト系ステンレス鋼の中でもオーステナイト相が安定系ではない準安定オーステナイト系ステンレス鋼であり,Md点以下の温度で塑性加工するとオーステナイト相がマルテンサイト変態し,微細なマルテンサイト相が生成される.このマルテンサイト相をAs点以上で焼なますことによりオーステナイト相への逆変態を伴う再結晶が生じ結晶粒はさらに微細化される.この加工熱処理によって結晶粒径が1μm以下に激減する.その工程の概略は図1に示す通りである.

     従来,準安定オーステナイト系ステンレス鋼においては,上記の加工熱処理を利用した結晶粒微細化処理は,ホール・ヘッチ則による耐力向上を目的として行われて研究されてきた1).基礎技術部材料設計研究室ではこの加工熱処理法を使って結晶粒を微細化したSUS304が超塑性現象を発現することを見いだした5)ので報告する.

    fig1

    図1 結晶粒微細化加工熱処理の基本単位

     

    2.超塑性現象の改良の必要性

     超塑性現象を見い出した当初においては,その超塑性発現のひずみ速度は1×10-2s-1以下と著しく低いものであった.しかしながらSUS304は通常の加工条件で十分に塑性加工が可能であり,このような低いひずみ速度でしか発現しない超塑性現象は,実用上ほとんど意義がないと考えられる.しかし,この超塑性現象が発現するひずみ速度を速くすることができれば,通常の塑性変形では得られない大きな変形能によって,SUS304の超塑性挙動も実用上意味を持つことが考えられる.

     そのため,SUS304において超塑性現象を加工に応用するためには,1×10-2s-1以上のひずみ速度での超塑性,すなわち高速超塑性の発現が実用上必要不可欠であると考えられる.

     現在は通産省工業技術院の産業科学技術開発「スーパーメタルプロジェクト」の一環として,超塑性発現のひずみ速度の高速化を目標として,SUS304超塑性挙動の改善に関する研究開発を行っている.

     加工手数としては、表面注入、裏面注入、エッチングと3ステップであり、さらにマスク2枚の作成を加えてもマイクロカンチレバーをシリコン基板上に作成する手順は従来の手法に比べて少ない。少ない加工工程で実際のカンチレバーを実現する有効な手段である。

    3.結晶粒微細化による超塑性挙動の改良

    3.1 加工熱処理

     微細結晶粒超塑性では,一般的に結晶粒を微細にすればするほど,その特性が向上すると考えられている.そのため,超塑性現象発見当初は約1μmであった結晶粒径をさらに微細化することを試みた.

     図1に示す粒径約1μmの結晶粒が得られた加工熱処理では,その加工熱処理前の素材は溶体化熱処理をはどこしたもので,その結晶粒径は数十μmあるいはそれ以上と大きいものである.そこで,その加工熱処理に供する素材の結晶粒径がこれより微細であるなら,1μmよりさらに微細な結晶粒組織が得られるのではないかと予測し,次の確認実験を行った.

    表1 化学組成(mass%)

    table1

     

     使用した試料は表1に成分を示す通りのSUS304市販材である.いずれも,1373Kで5min間(1373K×5min)の溶体化処理が施してある.これらに図2に示すような,以下の3種類の加工熱処理を加えた.

    S材)加工熱処理単位を1度だけ加えたもの5)
     厚さ10mmより1mmに冷間圧延した後に焼なまし(973K×1h).
     図2(a)

    D材)加工熱処理単位を2度加えたもの6)
     厚さ100mmの母材に冷間すえこみ及び圧延を加えて厚さ10mmとした後に焼なまし(973K×1h)を加える.
     これを1mmに冷間圧延後に焼なまし(973K×30min).
     図2(b)

    T材)加工熱処理単位を3度加えたもの
     30mm×30mmの角材を向きを変えながら冷間繰り返しすえこみし,焼なまし(973K×1h).さらに向きを変えながら冷間繰り返しすえこみして,焼なまし(973K×30min).これより厚さ10mmの圧延用小片を切り出し厚さ1mmまで冷間圧延し,焼なまし(973K×7min).
     図2(c)

     図2中の写真は,S材,D材およびT材それぞれのTEM組織である.結晶粒径はそれぞれ約1μm,約500nmおよび約300nmである.図には加工熱処理終了のものだけではなく,加工熱処理途中の組織も併せて示す.

    fig2a

    図2(a) =S材= 加工熱処理工程とTEM組織

     

    fig2b

    図2(b) =D材= 加工熱処理工程とTEM組織

     

    fig2c

    図2(c) =T材= 加工熱処理工程とTEM組織

     

    3.2 超塑性挙動の確認

     それぞれの試料から図3に示す引張試験片を切り出し引張試験を行った.試験片はJIS7号比例試験片に評点用の突起を付加したものである.

     試験装置は真空チヤンバ中で試料を高周波加熱することができる油圧式試験機であり,973Kの試験温度でクロスヘッド移動速度一定で種々のひずみ速度で試験を行った.

    fig3

    図3 引張試験片形状

     

     S材とD材については,あらかじめ一連の加工熱処 理を終了した試料を使い,試験温度に到達後,10min保持後引張試験を行った.しかし,T材においては,最終の熱処理時間が7minと短いために,最後の冷間圧延終了ままで試験片を切り出し,引張り試験機中で973Kで7min保持することにより,図2(c)のT材の最終組織に調整し,次いでそのまま引張試験を行った.

    fig4

    図4 高温引張試験結果(試験温度973K)

     

     図4は,引張試験結果である.ひずみ速度に対して,変位一荷重曲線のピークより求めた変形応力,伸び,および,ひずみ速度急変法でもとめたひずみ速度感受性指数,m値を示している.

     伸びだけに注目してみると,S材でさえも,5.6×10-3s-1のひずみ速度で200%以上の伸びが得られている.T材においては1.0×10-2s-1の高速超塑性域で,200%以上の伸びが得られている.

     しかしながら,超塑性現象が発現していると判断される基準は伸びが200%以上得られることだけではなく,m値が0.3以上であることが必要とされている.この基準で判断すると超塑性発現条件は,S材では約1.3×-4s-1以下,D材では約1.3×10-3s-1以下という,遅いひずみ速度域のみとなる.T材においては,約9.0×10-3s-1という,それらに比較すれば速いひずみ速度であるものの,高速超塑性とされる1.0×10-2s-1以上のひずみ速度に到達していない.

     

    4.展望

     T材における超塑性挙動発現ひずみ速度の上限は高速超塑性に極めて近い値である.すなわち,あと微かな微細組織の改善によって,SUS304が高速超塑性を示す可能性が高いと判断される.

     恐らくT材に加工熱処理の基本単位を加え,結晶粒径をさらに微細とすることで,それが達成できると思われる.現在はその加工熱処理条件をSUS304に加え,図5のように構成結晶の大部分の粒径が約200nm以下となることをすでに確認しているので引張試験片が採取できる程度の大きさの試料を制作準備中である.

    fig5

    図5 加工熱処理の基本単位を4度加えたときのTEM組織

     

     

    参考文献


     1)富村宏紀,谷本征司 高木節雄,”超微細粒オーステナイト系ステンレス鋼の変態挙動と機械的性質”,鉄と鋼,72(1986),S505
     2)J.Wadsworth and O.D.Sherby,"Influence of Chromium on super plasticity in ultra−high carbon steels",Journal of Materials Science,13(1978),p.2645
     3)岡出元宏,時実正治,O.D.Sherby,”実用軸受鋼の超微細結晶粒化と超塑性”,鉄と鋼,67(1981),p.2710
     4)鳥阪泰憲,臼井一郎,中沢克紀,宮川松男,”高速度工具鋼の再結晶による超微細結晶粒及びその応用”,鉄と鋼,71(1985),p.735
     5)加藤正仁,鳥阪泰憲,”単相ステンレス鋼SUS304におけるα’→γ逆変態をともなう再結晶および高温変形挙動”,鉄と鋼,80(1994),p.249
     6)加藤正仁,鳥阪泰憲,”SUS304の超塑性挙動改善のための加工熱処理”,鉄と鋼,84(1998),p.127
     

    [発表者]

    機械技術研究所 基礎技術部 材料設計研究室
             加藤 正仁
             TEL:0298−61−7180
             

    [連絡先]

    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
             Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


     

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