National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) This page is a page of the former research institute. We stopped updating on March 31.2001.
E-mail to webmaster (Japanese) E-mail to webmaster (English)

通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


イオン注入材料改質法を用いた
マイクロマシンデバイスの作成

機械研NEWS,2000,No.7より

機械研 NEWS text file

機械技術研究所 極限技術部 量子技術研究室
中野 禅



<概  要>

 シリコンに金イオンを注入してエッチング特性を変化させ、これによりマイクロカンチレバーを作成した。作成したマイクロカンチレバーのヤング率は、金の注入量により変化し、シリコンの半分以下の25〜60GPaが得られた。

 このような大幅にヤング率を制御する微細構造の作成プロセスはこれまでになかった。

 今後、機械的性質の他、電気的性質、光学的性質等の制御により、微少な加速度計やジャイロ、多情報光学素子などの各種センサー等への適用が期待できる。

 

fig1.gif

図1 加工方法の概念図

  • イオン注入後にエッチングすることにより注入層がマイクロ構造となる.
  • イオン注入で材料改質すると電気的、機械的な特性が変化.
  • イオン注入で階層的にエッチング速度を変化させると注入構造を取り出せる.
  •  

    fig2.gif

    図2 マイクロカンチレバーの作成例

  • 金イオン注入後にKOHを用いて基板のシリコンをエッチングした.
  • 金イオンを(100)シリコン基板に1×1017cm2注入.
  • 30% KOH溶液で裏面よりエッチング.
  •  

    fig3.jpg

    図3 金注入シリコンのEDX分析と断面TEM観察

  • シリコン中に金がガウス分布し,アモルファス構造となっている.
  •  

    fig4.gif

    図4 共振法により求めたヤング率

  • 基板のシリコンに比べ柔らかくなり、ドーズ量に依存している.
  • 金の注入でシリコンのヤング率に比べ半分以下の60〜25GPaとなり、柔らかい材料が得られた.
  • 金の注入量を制御するとヤング率の制御も可能と考えられる.
  •  

     


    イオン注入材料改質法を用いた
    マイクロマシンデバイスの作成

    機械技術研究所 極限技術部 量子技術研究室
    中野 禅
    TEL:0298−61−7163

     

    <概 要>

    機械研NEWS,2000,No.7より


     

    1 .はじめに

     マイクロマシン用の材料としては、シリコン系、ガラス・セラミックス、金属、高分子材料、アモルファス材料等が考えられるが、現在多様な材料がその特性を有効に利用されているとは言い難い。たとえば、国際会議IEEE第13回Micro Electro Mechanical Systems(MEMS 2000)1)では141件の講演が行われたが発表中で使われた材料は電極材料や製法により細分したシリコンを加えても60余であった。さらに構造材料として用いられているものを選ぶと、Silicon、Polisilicon、Silicon-nitride、glass、nickel、PZT等わずかな材料であった。これはプロセス上の問題もあるが、材料的に未開発なジャンルであることを示している。このように限られた材料からデバイスを設計し利用することは、大きな制約であり、特に必要とする特性をすべて幾何学的な形状制御で得なくてはならないのが現状である。そこで、利用可能な材料を広げることは大きな課題となる。極限技術部量子技術研究室では、この解決策として、イオン注入材料改質法2)の適用を提案3,4,5)し、加えて形状加工も同時に行う手法6,7)として開発を進めている。

     イオン注入では任意の元素を特定の領域に照射することにより、元素の添加による材料の作成、イオンの持つエネルギーの移動による構造の変化を基板上に引き起こす。これは物理的な現象であり、イオンが照射された領域だけの材料特性が変化する。サブミクロンサイズの領域の改質を効率的に行う事が可能であり、マイクロマシンにとって有効な手段である。注入イオン種、エネルギー、注入量、注入時の基板温度等を制御することにより改質後の特性を基板材料とは異なる特性のものとして広範に制御する事が可能であり、デバイスに有効に適応できる。さらにイオン注入法は半導体製造のドーピング技術として一般的な様に、MEMS型のリソグラフィにも容易に適応可能である。

     

    2.加工方法

     マイクロカンチレバーの作成を例に、イオン注入法を適用した材料構造の作成方法を示す。イオン注入による材料改質を行った材料は、電気的な性質や機械的な性質等各種の特性が変化する。この中に化学的な性質の一つであるエッチング特性の変化8)も含まれていることに着目すれば、エッチング速度を注入により基板より遅くすると、基板だけが選択的にエッチングされて注入構造を取り出すことが可能となる。さらにイオン注入の領域選択性を利用すれば、注入時に目的とするカンチレバー等のマイクロパターンを作成したステンシルマスクを用いて目的の形状だけに注入を行うと、その形状だけがマイクロ構造として残る。図1に加工の概念図を、図2に作成したマイクロカンチレバーを示す。図2に示した例では、3.1MeV金イオンを(100)シリコン基板に95Kにおいて1×1017cm2注入し、その後30% KOH溶液を用いて345Kにて裏面よりエッチングした。ステンシルには40μm 厚タンタルマスクをレーザー加工により作成している。得られたカンテレバーの寸法はおよそ500×100×0.7 μmであり、実用化されているAFMのカンチレバー9)に相応する大きさである。

     加工手数としては、表面注入、裏面注入、エッチングと3ステップであり、さらにマスク2枚の作成を加えてもマイクロカンチレバーをシリコン基板上に作成する手順は従来の手法に比べて少ない。少ない加工工程で実際のカンチレバーを実現する有効な手段である。

    fig1.gif

    図1 加工方法の概念図

  • イオン注入後にエッチングすることにより注入層がマイクロ構造となる.
  •  

    fig2.gif

    図2 マイクロカンチレバーの作成例

  • 金イオン注入後にKOHを用いて基板のシリコンをエッチングした.
  •  

     

    3.注入領域の構造

     カンチレバーの作成と同じ条件で金イオンをシリコンに注入した試料について断面透過電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)観察と金の分布をエネルギー分散]線分析(EDX:energy dispersive X-ray spectrophotometry)を行った結果を図3に示す。

    fig3.jpg

    図3 金注入シリコンのEDX分析と断面TEM観察

  • シリコン中に金がガウス分布し,アモルファス構造となっている.
  •  

     金の分布は表面下0.1から1.8μmの深さにガウス分布していて、最大でおよそ5%であった。より拡大した観察を行った場合、5nm程度のコントラストの違う領域は見られるものの、金が均質に分散し、金だけの粒子を作ることはなかった。また金の分布より深いおょそ1.9μmまでの領域がアモルファス化していた。アモルファスと単結晶の境界は連続的に変化し、転位等の欠陥は見られなかった。得られたマイクロカンチレバーの寸法が0.7μmであり、これがEDXの分析による半値幅とほぼ等しい。注入ドーズに比例してエッチレートが下がり、最終的にはカンチレバーの周囲からエッチングが行われている点を考慮すると、イオン注入により材料改質された構造だけを取りだし、マイクロカンチレバーを実現したことが分かる。この手法で作成したマイクロカンチレバーは薄膜で作成したときによく見られる残留応力による反りは僅かであり、これは、金の分布が対称なため残留応力の影響が小さいことを示している。小さな反りは厚さ方向に裏表のエッチング条件の違いにより僅かに非対称となり生じていると考えられ、条件の最適化等により無くすことも可能だと考えられる。

     

    4.マイクロカンチレバーの機械特性〜ヤング率

     作成したマイクロカンチレバーを用いて材料の弾性特性を共振法10,11)を用いて評価した。光てこ法を用いてカンチレバーの共振周波数を求めたところ1次から3次までのピークが得られその結果からヤング率の測定を行った。i次の共振周波数とヤング率Eは次式の関係がある。

    E=48π2(ρ4fi2)/(αi4h2) (1)  ここで、Lはカンチレバーの長さ、hは厚さ、fは共振周波数、αは幾何学的条件(一端拘束、他端自由)により求まる値で、
    cosαi coshαi = −1  (2) より求まる。ρは密度であり、金注人材料の密度の測定が困難な事から今回はシリコンの値ρp=2.3×103kg/m3として計算した。注入量を1×1017cm-2,2×1017cm2と変化させて得られた結果を図4に示す。その結果、シリコンの値に比べ半分以下の60〜25GPa程度のヤング率を示し、非常に柔らかい材料として得られていることが分かる。また注入量が大きいとヤング率が下がる傾向が見られ、注入量を制御することによりヤング率を制御可能と考えられる。

    fig4.gif

    図4 共振法により求めたヤング率

  • 基板のシリコンに比べ柔らかくなり、ドーズ量に依存している.
  •  

     

    5.おわりに

     イオン注入を用いた材料改質を利用してマイクロマシン構造を作成した。イオンが照射され、元素として添加された領域は、基の材料とは異なる特性を持つ材料としての利用が可能となる。特性のうち化学的性質の一つであるエッチレートを変化させることにより、基板を選択的に除去し、注入領域だけで構成される構造の作成を実現した。本報告ではシリコンに金イオンを注入しマイクロカンチレバーを作成し、ヤング率を測定したところ25〜60GPaと基板のシリコンの半分以下という小さいヤング率を示し、ドーズにより変化していた。基板材料の半分以下の値までヤング率を制御しながら構造を作成するプロセスは今までに無く、ここで紹介した手法は極めて有望である。特に、加速度計やマイクロジャイロなど、弾性梁構造を利用したセンサー等に適用することにより、測定感度の向上や高分解能化が期待できると考えられる。また機械的性質の他、電気的性質、光学的性質等も改質による制御が可能であり、例えば金を1×1017cm2注入したシリコンの表面抵抗率は36kΩを示し、導体としても利用可能である。紹介したマイクロマシンの作成手法は金以外のイオン種でチタン、プラチナ、炭素等でも可能である。イオン種の違いにより得られる材質は異なるため、今後各種の材料データを求め,マイクロマシン設計制作に有効に実現可能な技術としていく予定である。

     

    参考文献


     1)Proc. on 13th int. conf. on MEMS,IEEE,(2000),宮崎
     2)吉田,難波,岩木,「イオン注入表層改質技術」,サイエンスフォーラム,(1987)東京
     3)S. Nakano,K. Yamanaka, H. Ogiso,and T. Koda,Proc. 3rd int. symp. micromachine and human science, (1992) 51, Nagoya 4)K. Yamanaka,S. Nakano,H. Ogiso,O. V. Kolosov,and T. Koda, Proc. 3rd int. symp. micromachine and human science, (1992) 59, Nagoya
     5) 中野禅、山崎貴宏、石川晴雄、小木曽久人、山中一司、IONICS 21-6, (1995)27-34
     6) S. Nakano,H. Ogiso,and A. Yabe,Nucl.Instr.Meth. B(155)1-2(1999)79−84
     7) S. Nakano,H. Ogiso,H. Sato,S. Nakagawa,Surf. & Coat. Tech., 印刷中
     8) 中野,小木曽,矢部,機械技術研究所所報,51.6,(1997)6−11
     9) http://www.olympus.co.jp/LineUp/Technical/Cantilever/
     10) H. J. Butt,and M. Jaschke,Nanotecnology 6(1995)1-7
     11) S. Nakano,and K. Yamanaka,Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997)3265-3266
     

    [発表者]

    機械技術研究所 極限技術部 量子技術研究室
             中野 禅
             TEL:0298−61−7163
             

    [連絡先]

    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
             Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


     

     戻る