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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室
機械研NEWS,2000,No.10より
機械技術研究所 物理情報部 システム工学研究室
吉田 英一
<概 要>
多数のユニットの集合体として構成した自律再構成可能な機械システムには,環境への適応や自己修復などの能力を持たせることが可能である.さらに,マイクロ化を進めることにより狭隘環境での小型の検査組立ロボットへの応用が期待できる.通商産業省 工業技術院 機械技術研究所では,高度な機械システム開発の一環として,マイクロ化に有利な形状記憶合金(SMA)を用いて自己組み立て型のマイクロユニット機械システムの開発を進めている.これまでに,小型軽量・高出力のSMA回転アクチュエータを新たに考案し,大きさ約4cmX4cmX7cm,重さ約80gのマイクロ機械ユニット1号機を設計・試作し,その基本機能を検証した.
図1 ユニットの基本の動き
対角する頂点に配した回転アクチュエータがオス結合部を回転 オス結合部は他ユニットのメス結合部と結合・離脱が可能 U1がU2の周囲を右回りに90°回転
(1)U2がBを左90°回転
(2)U1がAを足場に自ら右90°回転
(3)U2がBによりU1と結合
(4)U1がU2からAを解放
(5)U2がBとBと結合したU1を右90°回転
図2 さまざまな2次元形状の生成
図3 SMAトーションばねを用いた回転アクチュエータ機構
アクチュエータの必要条件
単純小型
±90°の広い動作範囲
他ユニットを回転させるだけのトルク2個のSMAトーションばねを拮抗させた新アクチュエータ機構を考案
図4 設計したハードウェア(1号機)の機構
2個のSMA回転アクチュエータをユニットの対角点に配し,ピン穴を持つオス結合部のドラムを回転
図5 試作したハードウェア(1号機)
各ユニットにマイクロプロセッサ搭載 ホストPCから信号を受け,パルス幅変調によりSMAを通電加熱制御 SMAの通電加熱は外部電源による オス部ドラムの電極とメス部ピンを通して,結合ユニット間で双方向通信 寸法:約4cmX4cmX7cm(制御部を含む),重さ:約80g
表1 ユニットの出力の比較
図6 6台のユニットによる自己組み立て実験
(a):ユニットの運動(初期形状から目的形状へ) (b):初期状態 (c):中間状態 (d):自己組み立て終了
図7 マイクロユニット(2号機)の構造トハードウェア
SMAアクチュエータは,マイクロ化において比出力と応答性の点で電磁モータより有利 狭隘環境での応用を視野に入れ,1号機のサイズの約1/2の2号機を作成
図8 マイクロユニット(2号機)による組み替え実験
寸法:約2cmX2cmX1.5cm,重量:15gとなり(制御部含まず),1号機より大幅な小型化実現 SMAトーションばねは,線径0.45mm,ばね径3mm,巻数2のものを与圧巻き込み角270°で使用 ,0°回転時の出力は計算値2.0kgf・mmに対し1.1kgf・mm(回転摩擦などによる損失が大) ユニットの移動に必要なトルクは確保(制御信号や電力供給は外部より) 応答時間は約3秒となり,小型化による応答の改善が実現
機械技術研究所 物理情報部 システム工学研究室
吉田 英一
TEL:0298−61−7108
機械研NEWS,2000,No.10より
1 .はじめに
多数のユニットの集合体として構成した自律再構成可能な機械システムには,環境への適応や自己修復などの能力を持たせることが可能である[1,2].このユニット型機械システムのマイクロ化を進めることにより,狭隘環境での検査機械や小型の多目的ロボットなどへの応用が期待される.物理情報部システム工学研究室では,マイクロ化に有利な形状記憶合金(Shape Memory Alloy,以下SMA)を用いて,自己組み立て可能なマイクロユニット機械システムの開発を進めている.これまでに,小型軽量・高出力のSMA回転アクチュエータを新たに考案し,大きさ約4cmX4cmX7cm,重さ約80gのマイクロ機械ユニット1号機を設計・試作した.複数のユニットを用いて2次元形状の自己組み立ての実験を行い,その基本機能を検証したので報告する.さらに,1号機のユニットの大きさを約1/2にした2号機についても開発を進めており,その現状についても述べる.
2.マイクロユニットの構造
ユニットは,自律的に構造変更が可能で,かつ小型化可能なように単純な構造とした.設計した機械ユニットは正方形で,対角する頂点に配した回転アクチュエータがオス結合部を回転させる.このオス結合部は他ユニットのメス結合部と結合・離脱が可能である.図1(a)〜(c)は2ユニットU1,U2による基本的な移動を示す.U1・U2のオス結合部A・Bの操作を,(1)U2がBを左90°回転,(2)U1がAを足場に自ら右90°回転,(3)U2がBによりU1と結合,(4)U1がU2からAを解放,(5)U2がBを右90°回転という順序で行って,U1がU2の周囲を右回りに90°回転する.この基本動作を繰り返すことにより,図2のように多数のユニットがさまざまな2次元形状を構成することができる.多数のユニットが分散的に自己組み立てを行うためのアルゴリズムも開発されている[3].
図1 ユニットの基本の動き
図2 さまざまな2次元形状の生成
3.SMAトーションぱね回転アクチュエータ
図1の動きを実現するため,アクチュエータには
・±90°の広い動作範囲
・他ユニットを回転させるだけのトルク
が要求され,さらに小型軽量であることが求められる.これらの理由から,従来の電磁モータと異なり,小型化してもトルク/重量比が一定で,アクチュエータの構造も単純にできるSMAを用いることとした.ただ,これまで報告されているSMAを用いたマイクロアクチュエータでは,十分な動作範囲とトルクの両方を発生することが困難であった.そこで,2個のSMAトーションばねを拮抗させた新しいアクチュエータ機構を考案した(図3).図3 SMAトーションばねを用いた回転アクチュエータ機構
それぞれのSMAには記憶した形状(図3では0°)から巻き込んで与圧(図3では180°)を与えてあり,一方を通電加熱すると記憶形状への回復カが生じ,回転運動が実現される.所定の位置に停止させるストッパと併用して中間点と±90°の動作範囲を得る.このアクチュエータはユニットの移動に十分なトルクと動作範囲を持つことが計算により示されている[3].
SMAを用いて正確な位置制御を行うことは難しいが,ユニットを単純な構造にして離散的なON/OFF制御のみでの動作を可能としたため,これは大きな問題とはならない.逆に,制御システムが単純になるという利点につながる.また,応答が遅いという問題も指摘されているが,マイクロ化により体積に対する表面積の比を大きくすれば,冷却効率が上がり応答性を向上させることができる.
4.ハードウェアの実装と自己組み立て実験
図4に示すマイクロユニット1号機を設計・製作し,基本的な実験を行ってその機能を検証した.2個のSMA回転アクチュエータをユニットの対角点に配し,ピン穴を持つオス結合部のドラムを回転させる.
図4 設計したハードウェア(1号機)の機構
回転ドラムの0°の中心位置は,ばね力で押しつけるストッパによりロックされる(図4a).回転時には,SMAコイルばねを加熱することにより伸長させ,ストッパを引き抜いてロックを解除する.このストッパは,ドラムの回転を±90°の範囲に制限する役割も持つ.
メス結合部はオートロック機構を持つ(図4b).オス部のドラムが進入してストッパを押すと,バイアスばねによりピンが降りてドラムが固定され,2台のユニットが結合される.結合の解放は,SMAコイルばねを加熱して伸張させ,ピンを引き上げることにより行う.
このように,静止時にはユニットの回転や結合は機構的にロックされている.したがってSMAの通電加熱が行われるのは移動時のみとなり,電力の消費を最小限に抑えることができる.
図5が実際に試作したユニットのハードウェアである.各ユニットには,マイクロプロセッサ(Parallax社製Basic Stamp2が搭載されており,ホストのPCから信号を受け取り,MOS−FETを通じてパルス幅変調(PWM)によりSMAを通電加熱して制御する(図5b).SMAの駆動は外部電源より行っている.さらに,オス部ドラムの電極とメス部ピンを通して,結合しているユニット間で双方向通信を行うことができる(図5c).大きさは制御部を含み約4cmX4cmX7cm,重さは約80gとなった.
図5 試作したハードウェア(1号機)
アクチュエータ用SMAとして,非加熱時と加熱時の剛性の差が大きく高出力が可能なTi−Ni-Cu合金を用いて回転駆動部を構成した(線径0.8mm,ばね径8mm,巻数3,与圧巻き込み角270°).表1に出力測定結果を示す.PWMのデユーティ比25%とし,SMA当たりの出力は5Vの入力電圧に対して約2Aとなった.発生トルクの実測値は回転角0°のとき7.1kgf・mm(計算値7.5kgf・mm)で,他のユニットを移動させるのに十分なトルクが得られた.また90°の回転に要する時間は約7秒であった.
表1 ユニットの出力の比較
これらのユニットを6台用いて,図6に示す自己組み立ての実験を行った.これにより,マイクロユニットの自己組み立て機能が確認できた.
図6 6台のユニットによる自己組み立て実験
5.サイズ1/2のユニットの設計・試作
これまでに述べた通り,SMAアクチュエータは,マイクロ化した場合,トルク/重量比と応答性の点で,電磁モータに比較してさらに有利になる.狭隘環境での移動や作業などの応用を視野に入れ,1号機のサイズを約1/2とした2号機の設計・試作を行った(図7).ユニットの基本的な構造は1号機と同じであるが,機構部分などを統合して部品数の低減と全体の機構の簡略化を図っている.
図7 マイクロユニット(2号機)の構造トハードウェア
大きさ,重さはそれぞれ約2cmX2cmX1.5cm,15gとなり(制御部含まず),1号機より大幅な小型化が実現された.SMAトーションばねは,線径0.45mm,ばね径3mm,巻数2のものを与圧巻き込み角270°で用いた.このユニットを2台用いて,基本的な組み替え機能を確認した(図8).表1に示すように,0°回転時の出力は計算値2.0kgf・mmこ対し1.1kgf・mmとなった.回転摩擦などによる損失が大きいものの,ユニットの移動に必要なトルクは確保されている.また,応答時間は約3秒となり,小型化による応答の改善が実現された.制御信号や電源の供給は外部から行っている.
図8 マイクロユニット(2号機)による組み替え実験
6.おわりに
SMAを用いたマイクロ自己組み立てユニット機械について述べた.単純なユニット構造を採用し,それらの集合体によりさまざまな2次元形状を実現できるシステムを構成した.SMAトーションばねを用いて,ユニットの自己組み立てに必要な動作範囲と出力トルクを得られる回転アクチュエータ機構を提案した.これを用いて実際にマイクロユニットのハードウェアを試作し,実験によりこれらが持つ基本的な2次元形状の自己組み立て能力を確認できた.
今後の課題として,制御部のマイクロ化とそのユニットヘの統合を検討している.また,開発した2次元ユニットを組み合わせることにより,3次元構造を構成するユニット機械が実現可能であるので[3],その設計と実装も進めていきたいと考えている.
参考文献
[1]村田ほか”自己修復する機械”,計測自動制御学会論文集,31−2,(1995)254/262.
[2]吉田ほか”自律分散機械による3次元形状の自己組み立てと自己修復”,計測自動制御学会論文集,35−11,(1999)1421/1430.
[3]吉田ほか”SMAを用いた小型ユニット式自己組織ロボット”,日本機械学会ロボテイクス・メカトロニクス講演会 '99論文集(CD−ROM),(1999)1P2−29−035
[発表者]
機械技術研究所 物理情報部 システム工学研究室 吉田 英一
TEL:0298−61−7108
[連絡先]
機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
chisaka@mel.go.jp
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