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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


液晶素子の固有偏光を用いた
空間光位相変調

機械研NEWS,2000,No.10より

機械研 NEWS text file

機械技術研究所 物理情報部 光工学研究室
山内 真



<概  要>

 画像間の相関演算などを行う光学的情報処理技術や,三次元動画像を表示する実時間ホログラフイ技術,乱れた光波面を補正する補償光学技術等では,入射光波面を自在に加工する,いわゆる空間光変調素子がキーデバイスとなっている.これらの応用技術においては,透過光強度は一定のままその位相のみを変調する素子が必要である.しかし,高速応答,高空間分解能,低電圧駆動等の利点を追求した最近の市販液晶素子は薄く,このような薄いTN型液晶素子を位相変調素子として用いるためには,強度変調を行う時とは異なる新たな光学系の開発が必要となる.

  通商産業省 工業技術院 機械技術研究所では,液晶素子を挟む2枚の偏光板の偏角を最適化することによって最良の変調特性を得る方法を研究してきた.今回は,素子の固有偏光を用いて位相のみの変調を実現する新たな光学系の開発の試みとその実験結果から液晶素子の駆動信号の階調に対する強度透過率の変化を明らかにするとともに位相遅れの変化の改善を考察した.

 

fig1.gif

図1 ツイスティド・ネマティック型液晶素子の構造

  • 初期の市販液晶素子は複屈折量が大きく駆動電圧の選択で入射光の位相のみの変調が可能
  • 最近の市販液晶素子は複屈折量が小さく駆動電圧の選択で入射光の位相のみの変調が不可能
  • 安価で入手の容易な市販液晶素子を位相変調素子として用いる新たな光学系の開発が必要
  •  

    fig2.gif

    図2 液晶素子に与える駆動信号の階調に対する強透過率の変化

  • ツイスト角α=−91°,最大複屈折量βmax=193°の市販の液晶素子を用いた
  • 正の固有偏光で15%以内,負の固有偏光では10%以内
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    fig3.jpg

    図3 液晶素子にその固有偏光を入射したときの位相遅れを測定する位相シフトマッハツェンダー型干渉計システム

  • アルゴンレーザ,1/2波長板1,電気光学素子,偏光ビームスプリッター
  • 水平偏光成分,偏光子1,1/2波長板2 (参照光)
  • 垂直偏光成分,偏光子2,3,1/4波長板1,液晶素子,1/4波長板2,偏光子4
  • 偏光ビームスプリッター,対物レンズ,ピンホール,光検出器
  • 液晶ドライバ階調 0〜255
  • ロックインアンプに検出信号と参照信号を入力
  •  

    fig4.gif

    図4 液晶素子に与える駆動信号の階調に対する位相遅れの変化

  • 位相遅れの最大値と最小値の差(最大可能変調量)は,正の固有偏光に対し40°±10°,負の固有偏光に対して291°±10°
  • 実線:計算機シミュレーション結果
  • 実験とシミュレーション結果は定量的には相違,定性的には良く一致
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    液晶素子の固有偏光を用いた
    空間光位相変調

    機械技術研究所 物理情報部 光工学研究室
    山内 真
    TEL:0298−61−7097

     

    <概 要>

    機械研NEWS,2000,No.10より


     

     画像間の相関演算などを行う光学的情報処理技術や,三次元動画像を表示する実時間ホログラフイ技術,乱れた光波面を補正する補償光学技術等では,入射光波面を自在に加工する,いわゆる空間光変調素子がキーデバイスとなっている.これらの応用技術においては,透過光強度は一定のままその位相のみを変調する素子が必要であり,高速応答,高空間分解能,低電圧駆動等の利点から液晶素子が最も良く利用されてきた.特に,ビデオプロジェクター用のツイスティド・ネマティック型(TN型)液晶素子は一般に普及しており,安価に入手可能である.

     TN型液晶素子は,外部駆動電圧(多くの場合ビデオ信号)により透過光の強度を空間的に変調するよう設計されている.初期の市販液晶素子では液晶層が十分に厚く,複屈折量が1.9π以上あったので,駆動電圧の範囲を適当に選択することにより,入射光の位相のみを変調することが可能であった.しかしながら最近の製品では,一層の高速化,高空間分解能化を図るため素子の厚みが薄くなり,複屈折量がπ程度以下となつている.複屈折量が小さな素子を従来と同様の光学系に用いると,駆動電圧の変化に伴って出射光の偏光状態が大きく変化し,そのため透過光強度も大きく変化して位相のみの変調が困難となる.したがって,薄いTN型液晶素子を位相変調素子として用いるためには,強度変調を行う時とは異なる光学系が必要となる.

     物理情報部 光工学研究室ではこれまで,液晶素子を挟む2枚の偏光板の偏角を最適化することによって,最良の変調特性を得る方法を研究してきた1,2).今回は,素子の固有偏光を用いて位相のみの変調を実現する方法3)及びその実験結果を報告する.固有偏光を用いると,駆動電圧の変化に対して出射光の偏光状態の変化は比較的小さくなり,透過光強度の変化も小さくすることができる.

     TN型液晶素子の構造は図1のようになっており,透明電極に挟まれた液晶層中で,液晶分子の長手方向(ダイレクタ)がツイスト角αだけ捻れた配置となっている.

    fig1.gif

    図1 ツイスティド・ネマティック型液晶素子の構造

     

    複屈折量βは,液晶層の厚みをd,入射光の波長を入として
       β=π/λ・Δn d     (1)
    で与えられる.ここで△nは液晶の複屈折率である.液晶層に電界が加わると,液晶分子は電界方向に傾き,入射光に対する複屈折率△nが変化するため,複屈折量βも変化する.

     TN型液晶素子のジョーンズ行列MLCは,入射面でのダイレク夕方向を]軸にとると
       MLC=exp(−iβ)R(−α)M(α,β)   (2)
    となる3).ここでRは回転行列である.位相項と回転部分を除いたジョーンズ行列Mの正負の固有値μ±を求めると
       μ±=exp(±iγ)   (3)
    となり,対応する正負の規格化固有ベクトルは
       Eμ+=1/SQRT(2γ(β+γ))・ α i(β+γ)   (4-a)
       Eμ-=1/SQRT(2γ(β+γ))・ β+γ iα   (4-b)
    となる.ただし,γ=SQRT(α2+β2)とした.(SQRT:)

     固有偏光を液晶素子に入射すると,(2)〜(4)式を用いて
       MLCμ±=exp[−i-+γ)] R(−α)Eμ±   (5)
    となる.これは,固有偏光がその楕円率と回転の向きを保ったまま,楕円の長軸をツイスト角α分だけ回転させるよう伝搬し,かつ    φμ±=β-+γ        (6) だけ位相が遅れることを表している.複屈折量βは常に正であって,外部駆動信号によって0から最大値βmaxまで変化する.またγ>βであるが,βが大きくなるにしたがって両者の差は小さくなる.よって(6)式によれば,βの変化に対する位相遅れφの変化は,正の固有偏光で小さく,負の固有偏光で大きくなることが分かる.液晶素子による位相変調量は,複屈折量の変化に伴う位相遅れの変化分であるから,負の固有偏光を用いると比較的一定の透過率まま大きな位相変調量が得られることになる.

     実験では,ツイスト角α=−91°,最大複屈折量βmax=193°の市販の液晶素子を用いた.まず,素子に正負の固有偏光を入射した時の,駆動信号に対する強度透過率の変化を測定した.結果を図2に示す.予測された通り両者とも透過率の変化は少なく,正の固有偏光で15%以内,負の固有偏光では10%以内であった.

    fig2.gif

    図2 液晶素子に与える駆動信号の階調に対する強透過率の変化

     

     次に,図3に示すマッハツェンダー型の干渉計を用いて位相遅れを測定した.光源には,波長488nmのアルゴンイオンレーザーを用い,レーザー光を電気光学素子に通して垂直及び水平偏光成分の間に鋸波状の位相シフトを行う.垂直偏光成分は偏光ビームスプリッターにより反射して,偏光子3及び1/4波長板1により固有偏光となった後,液晶素子を透過する.透過光は,1/4波長板2と偏光子4により再び直線偏光に戻る.一方偏光ビームスブリッターを透過した水平偏光成分は参照光として使用され,測定光と重ね合わされて光検出器上に干渉縞を形成する.2枚の半波長板は,干渉縞のコントラストを最大にするために用いられる.液晶素子による位相遅れは,電気光学素子に加えた信号と,光検出器からの干渉縞強度信号の位相差となって,ロックインアンプで検出される.

    fig3.jpg

    図3 液晶素子にその固有偏光を入射したときの位相遅れを測定する位相シフトマッハツェンダー型干渉計システム

     

     液晶素子に与えた駆動信号の階調に対する位相遅れの測定結果を図4に示す.位相遅れの最大値と最小値の差(最大可能変調量)は,正の固有偏光に対し40°±10°,負の固有偏光に対して291°±10°であった.同図上には,計算機シミュレーションにより得られた結果も併せて実線で示した.両者は定量的には無視できない相違が認めらるものの,定性的には良く一致している.

    fig4.gif

    図4 液晶素子に与える駆動信号の階調に対する位相遅れの変化

     

     図4において測定結果とシミュレーション結果が定量的に一致しない理由はいくつか考えられるが,最大の原因は,液晶素子のジョーンズ行列によるモデル化が不完全なことにある.今回のシミュレーションに用いたモデルでは,液晶素子の厚み方向に対して,ツイスト角は線形に変化し,チルト角は一定だと仮定している.これは,液晶素子に与える外部駆動電圧が小さい時には良い近似を与えるが,電圧が大きくなるにつれて近似が悪くなる4).最近,液晶素子を3層に分け,縁部分を独立に取り扱うモデルが提案された5).そのモデルを用いて計算機シミュレーションを行ったところ,測定結果との相違は図4に比べて約半分に減少した.しかしながら,依然として測定誤差以上の相違があり,今後のさらなるモデルの改良が必要である.

     

    参考文献


     1)M. Yamauchi and T. Eiju, Optimization of twisted nematic liquid crystal panels for spatial light phase modulation, Opt. Commun., 115(1995)19.
     2)山内真,永寿伴章,“ツイスティド・ネマティック型液晶素子を用いた光空間位相変調光学系の最適化”,機械技術研究所所報,50−6(1996)151.
     3)J. A. Davis, I. Moreno, and P. Tsai, Polarization eigenstates for twisted nematic liquid-crystal displays, Appl. Opt., 37-5(1998)937.
     4) D. W. Berreman, Optics in smoothly varying anisotropic planar structures: Application to liquid-crystal twist cells, J. Opt. Soc. Am., 63-11(1973)1374.
     5) J. A. Coy, M. Zaldarriaga, D. F. Grosz, and O. E. Martinez, Characterization of a liquid crystal television as a programmable spatial light modulator, Opt. Eng., 35-1(1996)15.
     

    [発表者]

    機械技術研究所 物理情報部 光工学研究室 山内 真
             TEL:0298−61−7097
             

    [連絡先]

    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
             Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


     

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