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平成12年12月21日
通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室
摩擦力顕微鏡を用いた微細機械加工と
エッチングの併用によるマスクレスパターン成形
ーー 微細加工変質層のエッチングマスク効果 ーー機械研NEWS,2000,No.11より
機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室
芦田 極
<ポイント>
◎ 単結晶シリコン表面をFFM 機構を用いて微細機械加工すると加工変質層ができる ◎ 加工変質層はエッチングマスクとして作用し角柱構造が残る ◎ 1本の線走査スクラッチでもマスキング効果は発生する <概 要>
超精密加工技術の進歩に伴い,機械加工においてもナノメータスケールの加工制御技術が求められている.このため,走査型プロープ顕微鏡(SPM )を応用したナノメータスケールでの極微細な機械加工技術の研究が盛んになっている.
ナノメータスケールの機械加工では,工具と被削材の接触による物理的な変形破壊現象だけでなく,加工雰囲気や両者の接触界面における化学的な効果を考慮して加工現象を理解することが重要である.
千葉大学と機械技術研究所のグループは,SPM の1 種である摩擦力顕微鏡(FFM )に加工専用のカンチレバーを装着し,極微細加工とエッチングを併用した新しい加工原理を提案した.新加工原理により,単結晶シリコンのマスクレスパターニングを試み,機械加工の条件及びエッチング条件をパラメータとして微細構造の形成実験を行った.
本実験の結果,FFM 機構を用いた単結晶シリコン表面{100 }の微細機械加工では,加工領域の底面に加工変質層が形成され,この加工変質層が,低濃度(15wt %以下)のKOH 水溶液に対しては,エッチングマスクとして作用し角柱構造が残留形成されることが明きらかになった.一方,高濃度(20wt %以上)のKOH 水溶液では,エッチング促進作用を発現し,加工領域の深さが増加することが明らかになった.また,1 本の線走査によるスクラッチ加工でも,加工変質層のマスキング効果は発現し,パターン形成が可能であった.
本手法は,マスクプロセスが不要なので従来の微細構造形成に比べて大幅な時短が可能である.今後は,加工変質層の構造解析及び分析を行って,現象の機構解明を進め,実用化に必要な加工精度の確保を目指す予定である.
図1 実験方法
図2 加工部のAFM 観察像
図3 エッチング時間と残留高さの関係
(a )FFM による機械加工後 (b )エッチング処理後
図4 水酸化カリウム水溶液濃度による形状の変化
図5 水酸化カリウム水溶液濃度と残留高さの関係
図6 パターン形成実験の結果
摩擦力顕微鏡を用いた微細機械加工と
エッチングの併用によるマスクレスパターン成形機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室究室
芦田 極
TTEL :0298 −61 −7155
機械研NEWS,2000,No.11より
1 .はじめに
超精密加工技術の進歩に伴い,機械加工においてもナノメータスケールの加工制御技術が求められている.この観点から,近年走査型プロープ顕微鏡(SPM )を応用したナノメータスケールの極微細加工技術が盛んに研究されている1 )〜5 ).
ナノメータスケールの機械加工では,工具と被削材の接触による物理的な変形破壊現象だけでなく,加工雰囲気や両者の接触界面における化学的な効果を考慮して加工現象を理解することが重要になってくる6).そこで,本研究では,ナノメータスーケルの機械加工現象を理解するために,SPM の1 種である摩擦力顕微鏡(FFM )に加工専用のカンチレバー7 )を装着し,極微細加工実験を行った8 ).
いくつかの条件で実験を進める過程で,単結晶シリコン表面を機械加工した後にKOH 水溶液でエッチングを行うと,加工領域が周囲に対して溶け残る,すなわちエッチングマスクとして作用する現象を見い出した9 ).さらに,KOH 水溶液濃度を変化させて実験を行った結果,高濃度のKOH 水溶液中では,加工領域が周囲よりも深くなる,すなわちエッチング促進効果を発現することが明らかになった.この現象を利用して,極微細機械加工とエッチングの併用による単結晶シリコンのマスクレスパターニングを試みた.
2 .実験方法
FFM では,鋭い探針を有するカンチレバープローブを試料表面に接触させ,そのたわみとねじれを光てこ機構により検出する.探針と試料の相対位置は圧電素子を用いて制御され,カンチレバーのたわみ量を一定に保つフィードバック制御を行っている.本研究では,一般の測定用カンチレバーの替わりに,高剛性で先端にダイヤモンド砥粒を固定した加工専用カンチレバー7 )を工具として用いている.数百μN の垂直荷重を切れ刃に負荷することで,ナノメータオーダの切込み深さで機械加工(定荷重切削加工)を行う.
図1 は実験方法の概略図である.まず,単結晶シリコンのポリシング面({100 }面,Ra5nm)に,加工用カンチレバーを用いて1 辺15 μm の正方形領域を走査し,機械加工を行う.垂直荷重およそ800 μN の条件で,深さ30nm 程度の凹みが形成される.次に,この試料を室温(約23 ℃)のKOH 水溶液で一定時間エッチング処理する.その後,流水洗浄を十分行い,表面を乾燥させる.エッチング前後の加工部の形状は,市販の接触モード原子間力顕微鏡(AFM )カンチレバーを用いてAFM 観察し,深さ及び高さを測定した.
一般に,単結晶シリコンの表面は厚さ数nm 程度の自然酸化膜で覆われている.エッチングにおける自然酸化膜の影響を回避するため,フッ化水素で酸化膜除去処理を行い,十分に洗浄した.
図1 実験方法
3 .実験結果
図2 (a )は,垂直荷重789 μN ,加工速度120 μm/sで機械加工を行った試料表面のAFM 観察像である.深さ34nm の凹みが形成されている.図2 (b )は,15wt %KOH 水溶液で20 分間エッチング処理を行った加工領域のAFM 観察像である.加工領域の底面がマスク作用を示し,その周囲が選択的にエッチングされている.その結果,加工領域が高さ259nm の角柱構造物として残留形成された.
この理由として,機械加工時に加工領域の底面に生成された加工変質層が,エッチングマスクとして作用したことが考えられる.単結晶シリコンを機械加工すると,除去された領域の底面には,結晶性が乱れたり,大気中の酸素等と結びつくことで性質の変化した層が存在すると推測される.またKOH を用いたエッチングでは,結晶方位によるエッチング速度の違い(異方性)があり,また酸化物等に対するエッチング速度も遅くなる.そのために,このような加工変質層による<100>面に対するマスキング効果が発現したと考えられる.
図3 は,10wt %KOH 水溶液を用いた場合の,角柱構造物の残留高さとエッチング処理時間の関係である.エッチング時間が0 における負の残留高さは加工領域の除去深さである.エッチング時間の増加に伴い残留高さはほぼ直線的に増加している.このことから,加工変質層のマスキング効果は90 分間以上持続しており,加工部にKOH 水溶液に対し十分な耐食性をもつ加工変質層が生成されていることを示唆している.
図2 加工部のAFM 観察像
図3 エッチング時間と残留高さの関係
(a )FFM による機械加工後 (b )エッチング処理後
次に,一定の条件で機械加工を行い,KOH 水溶液の濃度をパラメータとして20 分のエッチングを行った.図4 は,それぞれのKOH 水溶液濃度によるエッチング処理後のAFM 像である.図5 は残留高さとKOH 水溶液濃度の関係である.KOH 濃度15wt %までの範囲では濃度の増加とともに残留高さが増大する.15wt %以上では残留高さは減少し,20wt %の時には残留部はほとんど形成されない.さらに高い濃度では,機械加工による除去深さよりも深い凹形状となり,加工変質層によるエッチング促進効果が現れた.グラフから22wt %付近に加工領域と未加工領域のエッチング速度が等しくなる濃度が存在することがわかる.以上の結果より,加工変質層のマスキング作用はKOH 水溶液濃度によって大きく異なり,これが残留形状を決定する因子であることが明らかになった.
図4 水酸化カリウム水溶液濃度による形状の変化
図5 水酸化カリウム水溶液濃度と残留高さの関係
このメカニズムについては不明であるが,次のようなモデルを推測できる.機械加工によって形成される加工変質層は2 層構造になっており,表面はKOH に対して強い層,内部はKOH に対して弱い層で構成されているモデルを考える.濃度の低い条件では強い層によるマスキング効果が現れ,濃度の高い条件では強い層が浸食されて,弱い層による促進効果が現れると考えられる.
ここまでの実験で得られた結果をもとに,マスクプロセスを用いない微細構造パターニングを2 例試みた.第1 ケースの機械加工条件は,垂直荷重789 μN ,加工速度120 μm/s で4 つの正方形領域(1 辺5 μm )を面走査するもので,第2 ケースは垂直荷重395 μN ,加工速度40 μm/s で,長さ5 μm の線走査を3 本行うものである.機械加工した試料を,温度23 ℃,濃度10wt %のKOH 水溶液によりそれぞれ90 分間と20 分間エッチング処理を行った.その結果,図6 に示すような,高さ540nm の角柱構造と幅約370nm,高さ約100nm の線状構造を形成できた.線走査でもマスキング効果を有する加工変質層が形成され,微細形状のパターニングが可能であることがわかった.
図6 パターン形成実験の結果
4 .おわりに
FFM 機構による極微細加工とエッチングを併用した新しい加工原理を提案し,単結晶シリコンのマスクレスパターニングを試みた.機械加工の条件及びエッチング条件をパラメータとして微細構造の形成実験を行った.
FFM 機構を用いて単結晶シリコン表面{100 }に微細な機械加工を行うと,加工領域の底面に加工変質層が形成される.この加工変質層が,低濃度(15wt %以下)のKOH 水溶液に対しては,エッチングマスクとして作用し,角柱構造が残留形成される.一方,高濃度(20wt %以上)のKOH 水溶液では,エッチング促進作用を発現し,加工領域の深さが増加する.また,1 本の線走査によるスクラッチ加工でも,加工変質層のマスキング効果は発現し,パターン形成が可能であった.
本手法ではマスクプロセスを必要としないため,従来の微細構造形成技術に比べて大幅にプロセスを短縮できる.今後は,このような現象が生じるメカニズムについて,加工変質層の構造解析及び分析を行って,考察を深め,実用化に向けて加工精度の向上を図っていきたい.
参考文献
1 )三宅正二郎,石井正紀,大竹利明,津嶋尚武,“原子間力顕微鏡によるマイカのナノメータスケールの機械加工”,精密工学会誌,63- 3(1997)426.
2 )三宅正二郎,金鐘得,“原子間力顕微鏡(AFM)によるシリコンのマイクロ隆起加工”,精密工学会誌,65- 12(1999)1788.
3 )左光大和,“AFM による原子スケール加工法の研究”,精密工学会誌,61- 8(1995)1121.
4 )芦田 極,森田 昇,吉田嘉太郎,“摩擦力顕微鏡機構を用いた極微小な機械加工の研究(第1 報)”,日本機械学会論文集(C 編),64- 626(1998)4072.
5 )芦田 極,森田 昇,吉田嘉太郎,”摩擦力顕微鏡機構を用いた極微小な機械加工の研究(第2 報)”,日本機械学会論文集(C 編),64- 626(1998)4079.
6 )精密工学会編,ナノメータスケール加工技術,初版,日刊工業新聞社,東京,1993 ,1.
7 )芦田 極,森田 昇,吉田嘉太郎,平井聖児,“原子間力顕微鏡一体型加工評価装置の開発”,砥粒加工学会誌,41 ,7(1997)276.
8 )佐々木 源,芦田 極,森田 昇,吉田嘉太郎,“原子間力顕微鏡一体型加工評価装置の開発(第2報)”,砥粒加工学会誌,42,8,(1998)14.
9 )陳 利益,森田 昇,吉田嘉太郎,“摩擦力顕微鏡機構を利用した極微細加工に関する研究(第6報)”,1999 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,(1999)372.
[発表者]
機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室 芦田 極
TEL :0298 −61 −7155
[連絡先]
機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
chisaka@mel.go.jp
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