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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


射出成形ウィスカー強化ポリアミド樹脂の引張強度と引張疲労強度

基礎技術部 材料物性研究室 古江治美
   同部    同研究室 野中勝信
TEL:0298−61−7169

 

機械研NEWS,1999,No.9より

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概 要

新たに強化繊維の仲間入りをしつつあるウィスカーを用いた短繊維強化高分子系複合材料に関しての研究はあまり行われていない.本研究ではホウ酸アルミニウムウィスカー強化ポリアミド(PA)系複合材料を対象に,静的引張強度と引張疲労強度に及ぼすウィスカー含有率および採取部位の影響について,ウィスカーの配向性の観点から検討した.さらに,ウィスカーの強化効果について,CFおよびGF短繊維強化効果との相関性についても検討を加えた.

 ホウ酸アルミニウムウィスカー強化は比較的安価で高性能な複合材料が期待できる.CFあるいはGFに比較すると,ウィスカーの寸法は1桁小さく,このため強化材として樹脂中に設計通り分散させることは非常に難しい.素材の選択のみでなく,強化繊維の配向性の検討が成形条件の決定,型およびゲート位置の決定など,成形すべてに関わり重要である.本研突成果は,複雑な形状の成形体に対する射出成形プロセス条件の最適化を進める上でも有用である.


 

添付図、写真の説明

 

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試験片は1枚の成形板から3本を機械加工により採取し,採取部位の影響をウィスカーの配向性の観点から検討するため,板の両側部でゲートを含まない試験片(Specimen a)によるデータと射出ゲート部分を含む試験片(Specimen b)によるデータを別グループとして扱った.

 

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材料毎の疲労実験結果の例.樹脂単体ではSpecimen bの方がSpecimen aよりもわずかながら高い.

 

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材料毎の疲労実験結果の例.ウィスカー含有率が高くなるにしたがい,Specimen aとSpecimen bの差は大きくなり,しかもSpecimen bで低い値になる.

 

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上図(1)では,破断面に垂直なウィスカーの存在(ウィスカー端部が破断面上に突き出ている,あるいは抜けた穴がある)が認められる.強度の向上のためにはこのような破断面に垂直なウィスカーの存在が望まれる.

同(2)ではこのような破断面に垂直なウィスカーの存在は認められず,ほとんど破断面に平行なウィスカーのみである.

 

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ウィスカー重量含有率0%(以下PA66と表示),同15%(同PA66-15),同30%(同PA66-30),同50%(同PA66-50)の4種類の射出成形板を用いた.

 

 

[発表者]

機械技術研究所 基礎技術部 材料物性研究室 古江治美

         Tel: 0298-61-7169, Fax: 0298-61-7167

[連絡先]

機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則

         Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033

         chisaka@mel.go.jp,ishizuka@mel.go.jp

 

 


 

射出成形ウィスカー強化ポリアミド樹脂の引張強度と引張疲労強度

基礎技術部 材料物性研究室 古江治美
   同部    同研究室 野中勝信
TEL:0298−61−7169

 

機械研NEWS,1999,No.9より

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1. はじめに

 熱可塑性プラスチックは強度,剛性,硬度の向上,あるいは寸法安定性の確保などの目的で短繊維強化される場合が多い.従来より,耐疲労設計のための指針を得る目的で,カーボン繊維(CF)あるいはガラス繊維(GF)を用いた射出成形熱可塑性樹脂の力学性能向上のための短繊維強化について,短繊維強化効果および疲労特性に及ぼす樹脂,強化繊維,応力比,繰返し速度等の影響を明らかにした.また,射出成形における短繊維の配向が疲労破壊メカニズムに寄与していることも示した.

 しかし,新たに強化繊維の仲間入りをしつつあるウィスカーを用いた短繊維強化高分子系複合材料に関しての研究はあまり行われていない.既に,基礎技術部材料物性研究室では茨城大学工学部システムエ学科と連携して,構造材料としての使用を念頭に,ホウ酸アルミニウムウィスカー強化樹脂(ポリアミド系,ポリカーボネート系,ポリオキシメチレン系)複合材料の力字特性の時間依存性,温度依存性などについて考察した1,2,3).本研究ではホウ酸アルミニウムウィスカー強化ポリアミド(PA)系複合材料を対象に,静的引張強度と引張疲労強度に及ぼすウィスカー含有率および採取部位の影響について,ウィスカーの配向性の観点から検討した.さらに,ウィスカーの強化効果について,CFおよびGF短繊維強化効果との相関性についても検討を加えた.

 ホウ酸アルミニウムウィスカー強化は比較的安価で高性能な複合材料が期待できる.CFあるいはGFに比較すると,ウィスカーの寸法は1桁小さく,このため強化材として樹脂中に設計通り分散させることは非常に難しい.素材の選択のみでなく,強化繊維の配向性の検討が成形条件の決定,型およびゲート位置の決定など,成形すべてに関わり重要である.本研突成果は,複雑な形状の成形体に対する射出成形プロセス条件の最適化を進める上でも有用である.

 

2.実験材料および実験方法

 ホウ酸アルミニウムウィスカーは比重=3.0,縦弾性係数=392GPa,引張強度=7.8GPaといわれていて,繊維の直径はCF,GFに比較すると1桁小さく1μm前後である4).樹脂との接着性も良く,樹脂中に材料設計通り分散させることおよび配向させることが出来れば高い性能が期待できる強化材である.

 実験材料はポリアミド樹脂(PA66)をマトリックスとし,ホウ酸アルミニウムウィスカーを強化材として,ウィスカー重量含有率0%(以下PA66と表示),同15%(同PA66-15),同30%(同PA66-30),同50%(同PA66-50)の4種類の射出成形板を用いた.板の成形条件は成形温度(樹脂温度)が250℃,金型温度が100℃,冷却時間が17秒,射出時間が10秒,射出圧力についてはPA66で73MPa,PA66−15で80MPa、PA66−30でl30MPa,PA66-50で135MPaである.

 試験片採取の詳細を図1に示す.試験片は1枚の成形板から3本を機械加工により採取し,採取部位の影響をウィスカーの配向性の観点から検討するため,板の両側部でゲートを含まない試験片(Specimen a)によるデータと射出ゲート部分を含む試験片(Specimen b)によるデータを別グループとして扱った.

fig1s.jpg

 

 実験は23±1℃,50±5%RHの恒温恒湿室内で行った.静的引張り試験は2mm/min(PA66-30およびPA66‐50)あるいは5mm/min(PA66-OおよびPA66-15)のクロスヘッド速度,引張り疲労実験は荷重制御,正弦波,10Hz,R(=最小繰返し応力/最大繰返し応力)=0.1で行った.

 

3.実験結果および考察

 材料毎の疲労実験結果の例を図2図3に示す.樹脂単体ではSpecimen bの方がSpecimen aよりもわずかながら高い.これは樹脂単体では高分子の配向あるいは結晶化の度合いなどが樹脂流速の早いと考えられるゲート延長領域で有効に作用していることによると考えられる.しかしウィスカー含有率が高くなるにしたがい,Specimen aとSpecimen bの差は大きくなり,しかもSpecimen bで低い値になる.本研究に用いた材料を含めて短繊維強化射出成形材料の場合,一般的には出来る限り成形板の部位により強度に差が生じない成形条件を採用して成形される.それでもなお経験不足,調整不能などにより,部位による強度の差が生じる.通常,そのような差は短繊維の配向の結果から説明される.

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 短繊維のような針状の充填材を含む粘弾性流体の流れおよびその凍結は型形状,樹脂および繊維の性状,射出の圧力・温度,型の温度などが複雑に影響する.従って,十分な予測は未だ不可能である.成型品の表面では固化しやすく,中心部では固化が遅れる.反面,表面からの距離が離れるほど流速は早くなり,表面近くほどせん断速度は大きい.これらのことにより,表面近くでは流れに平行な繊維配向が認められるのに対し,中心部,中央部では繊維はランダムな配向あるいは流れに垂直の配向を示す傾向さえも認められている5)図4に示す疲労破断面の走査電子顕微鏡写真はこのような概略的理解を裏付ける試験片内部のウィスカーの配向を示している.図4(1)はSpesimen aの疲労破断面の走査電子顕微鏡写真であって,破断面に垂直なウィスカーの存在(ウィスカー端部が破断面上に突き出ている,あるいは抜けた穴がある)が認められる.強度の向上のためにはこのような破断面に垂直なウィスカーの存在が望まれる.同(2)ではこのような破断面に垂直なウィスカーの存在は認められず,ほとんど破断面に平行なウィスカーのみである.これは射出樹脂の流れに垂直なウィスカーの存在を意味し,強度の向上にはあまり寄与していないと考えられる.破断面全体が全く同様の形態というわけではないが,このような差違が両者の強度の相違に対応している.

fig4s.jpg

 

 繰返し速度10Hz程度の引張疲労実験では,疲労限を示さない材料について,それに代わる代表値として106回の引張疲労強度が用いられる.疲労実験結果から,図5に各材料毎の106回の引張疲労強度を求めて,各材料の静的引張強度とともに示した.材料毎およびゲートの有無によるグループ分けにより,静的引張強度(σt)と106回引張疲労強度(σf)に良い相関が認められる.また,本実験範囲内でのドσf/σtはおおよそ一定値0.50±0.03の範囲であった.

fig5s.jpg

 

 短繊維強化効果の一考察として,表1に今回の疲労実験結果に加え,同じ実験条件で得られた短繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の結果をまとめた.ポリエーテルサルホン(PES)系6)とポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系7)ではゲートの形状がPA系とは異なりシート状のものなので,おおよそ本文のSpecimen aに相当すると考えてよい.PES系については樹脂単体の疲労強度は高くないものの,疲労強度に関する強化効果(表1中のσr,f/σn,fが高い)はかなり認められる.しかし,PEEK系のように非常に疲労強度の優れる樹脂系では,短繊維強化による効果はPES系と同様には期待されず,σf/σtについては樹脂単体よりも低下するGF(20)/PEEKの例もある.PA系は両者の中間とみることができる.

fig6s.jpg

 

 

4.まとめ

 射出成形ウィスカー強化PA系の静的引張強度と引張疲労強度が射出ゲート位置に依存して,試験片採取部位により差のあること,その差違はウィスカーの配向性の結果として説明できることを示した.ウィスカー強化樹脂複合材料の破壊メカニズムと短繊維の配向性に関してさらに検討を進めたい.

 走査電子顕微鏡写真は電子顕微鏡室の斉藤慶子氏に,射出成形と材料特性の関係に関しては物質工学工業技術研究所の北野武氏にご助力,ご助言をいただいてものである.

 

「参考文献」

1)増田,野田,古江,“ウィスカー強化プラスチックの応力緩和特性”,第27回FRPシンポジウム講演論文集,pp.119−122,1998.3.18.

2)増田,野田,古江,“ウィスカー強化プラスチックの引張強度の速度依存性”,第26回FRPシンホジウム講演論文集,pp.296-299,1997.3.14.

3)増田,斉藤,古江,王,“ウィスカー強化プラスチックの粘弾性特性”,第25回FRPシンポジウム講演論文集,pp.281-284,1996.3.19.

4)アルボレックス技術資料ー基礎編−,四国化成工業K.K.(1992)

5)実用プラスチック成形加工事典,実用プラスチック成形加工事典編集委員会編,産業調査会(1997),”繊維配向シミュレーション”,pp.164-168

6)古江,野中,”短繊維強化ポリエーテノレサルホンの引張疲労特性に及ぼす平均応力の影響”,材料,Vol.45,No.1,pp.72-78(1996)

7)古江,野中,橋村,”短繊維強化ポリエーテノレケトンの引張疲労特性に及ぼす平均応力の影響”,材料,Vol.46,No.10,pp.1197-1203(1997)

 


 

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