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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


 

表面活性化法によるシリコンと
ニオブ酸リチウムの常温ウェハ接合
 

生産システム部 界面制御研究室
高木 秀樹

 

機械研 NEWS text fileへ

 

 

概  要

 携帯用情報端末などの普及と小型化の流れの中で,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のような電子セラミックスとシリコン(Si)ウェハなどの接合技術は,電子回路と機能素子の高集積化と,機器の小型化のための重要な課題である.
 シリコンとニオブ酸リチウムのような異種材料の接合においては,従来の加熱・冷却を行う方法では十分な接合強度を得ることは困難であった.これは,熱膨張係数の違いで接合界面に歪みで微細な剥離や破壊が発生するためであった.

 機械技術研究所 生産システム部では,剥離・破壊の起こらない,加熱・冷却を行わない接合技術,すなわち表面活性化法の確立を目指している.

 表面活性化法で,代表的な電子セラミックスの一つであるニオブ酸リチウムとシリコンウェハの接合実験を実施し,以下の接合特性を解明した.

<特 徴>
  
  • 加熱を必要としないため熱膨張係数の異なる材料の接合が可能である.   
  • 接合界面の格子不整合などに関わり無く様々な結晶方位の組み合わせで接合が可能である.   
  • 外的な加圧なく接合できるため脆性材料や微細構造の接合も可能である.

     現在,半導体や機能性セラミックスを中心として,様々な材料への本接合法の適用について検討を進めているが,今後微小構造の接合や微細加工プロセスヘの組み込み,ウェハスケールでの一括接合などについても検討してゆく予定である.

     

     

    図1

    図1 各種材料の熱膨張計

     

     

    図2

    図2 接合実験に使用した試料の形状

     

     

    図3

    図3 接合用真空装置の概要

     

     

    図4

    図4 SiとLiNbO3の接合強度測定結果

    SiとLiNbO3の接合強度は,Si同士より幾分小さいもののほぼ同等の接合強度が得られている.

     

     

    図5

    図5 表面活性化法によるSiとLiNbO3の接合体の破断面
    (界面での剥離ではなく,母村内部からの破断が観察される)

     

     

    図6

    図6 表面活性化法によるSiとLiNbO3の接合界面の透過電子顕微鏡像

  • 接合界面にはボイドや剥離などは存在しない.
  • Si側の接合界面付近には,楕円状のコントラストが観察され接合界面に垂直な方向の局所的な歪みが存在する.
  • この歪みは,微小な凹凸を持つ接合前表面が,接合界面で密着する際に生じたと考えられる.

     

     

    図7

    図7 接合界面の高分解能透過電子顕微鏡像

  • 接合界面に数nmの非常に薄い中間層が存在し,層の両側のSiとLiNbO3の結晶格子像が見えなくなっている.
  • 接合界面に多くの格子欠陥が存在するにも関わらず,母材強度と遜色無い接合強度が得られる.

     

     


  •  

    表面活性化法によるシリコンと
    ニオブ酸リチウムの常温ウェハ接合
     

    生産システム部 界面制御研究室
    高木 秀樹

     

    機械研ニュース NEWS,1999,No.5より
    概要 へ

     

     

     シリコン(Si)ウェハはLSIなどの電子回路作製用の基板としてばかりではなく,マイクロマシンに代表される微小な構造体においても,主要な材料として広く使用されている.一方,電子セラミックスと呼ばれる材料は,電気,磁気,光,熱,力(歪み)などの,異なる物理量を相互に変換する特性を持ち,Siにはないトランスデユーサー機能を実現することが出来る.それらの中でも,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)は高周波フィルター用の圧電材料として広く使用されているほか,アクチュエータ材料や,電子(音響)光学素子などへの応用が期待されている.携帯用情報端末などの普及と小型化の流れの中で,LiNbO3などの電子セラミックスとSiウェハの接合技術は,電子回路と機能素子の高集積化と,機器の小型化のための重要な課題として研究が進められている.

     電子セラミックスとSiのような異種材料の接合では,図1に示すような熱膨張係数の違い(LiNbO3:14.4−15.9×10−6/℃,Si:2.6×10−6/℃)が,大きな問題となっている.従来の接合法は加熱・冷却を必要とするので,その過程において熱膨張の違いにより,接合される二つの材料の間に歪みが発生する.この歪みによる応力は,接合部や場合によっては試料そのものの破壊を引き起こすほどの大きさになる.このため,従来の接合法では熱処理温度が制限され,十分な接合強度を得ることは困難であった.生産システム部 界面制御研究室では,真空中での表面処理を利用した,常温での接合技術の研究を行っている.この方法では接合工程において加熱を全く必要としないので,熱膨張係数の異なる材料問の接合に適していると考えられる.ここでは,この方法を用いて代表的な電子セラミックスの一つであるLiNbO3とSiとの接合を検討した結果について紹介する.

     

    図1

    図1 各種材料の熱膨張計

     

     常温での接合の原理は以下のようなものである.通常,物質の表面には大気中の酸素との反応による酸化物や,吸着した気体分子の層が存在する.真空中でアルゴン(Ar)などの不活性ガスのビームにより物質表面をエッチングすると,これらの表面層を除去することが出来る.そのような表面は,他の原子との強い結合力を持つ活性な状態になり,表面同士をそのまま真空中で重ね合わせることで接合が可能になる.この方法は表面活性化接合(Surface Activated Bonding:SAB)と呼ばれている.

     接合実験には,図2のような形状の試料を使用している.この試料サイズは,Arビームの照射領域との関係により決定したもので,装置の変更により容易に大型試料まで対応可能である.Siは4インチの(100)ウェハから,LiNbO3は3インチの128−Yカットのウェハより切り出したもので,厚さはともに500μmである.Si側試料中央には図のような凸部を形成しており,この部分が接合部となる.これらの試料は接合実験直前に,硫酸過酸化水素混合液により表面を親水化し,純水で洗浄する.この処理により同時に,試料表面に付着した微細なパーティクルの除去を行っている.表面のパーティクルは非常に小さなものであっても,接合界面に大きな未接合部を発生させる原因となるので,これを表面から取り除くことは,Siなどのウェハ材料の接合では非常に重要である.

     

    図2

    図2 接合実験に使用した試料の形状

     

     表面活性化法による接合実験は以下の手順で行う.試料を導入用のチヤンバーを介して,図3の真空接合装置に入れ真空に排気する.実験時の真空度は2×10−6Pa程度であるが,必ずしもここまでの超高真空は必要ではない.その後,試料表面をArのビームにより60 sエッチングし,そのまま真空中で接合する.Arビームのエネルギーは約1keV,照射角は表面に対して45°である.シリコンの場合のエッチング量は約4 nmで,集積回路やマイクロマシンのサイズと比べても非常に小さい.なお,ここでは絶縁物であるLiNbO3表面のチャージアップを防止するため,イオンビームを中性化した高速原子ビームを用いている.また,比較のため従来のウェハ接合法(Wafer Bonding:WB)による実験も行っている.従来のウェハ接合法では,表面活性化接合の場合と同様の手順で洗浄し表面を親水化した試料を,常温の大気中で貼り合わせた後,窒素雰囲気中で熱処理を行う.

     

    図3

    図3 接合用真空装置の概要

     

     表面活性化法を用いることにより,SiとLiNbO3の接合強度は大きく向上した.図4は,表面活性化法と従来のウェハ接合法による,SiとLiNbO3の接合強度を示したものである.強度は引っ張り試験法で測定している.従来のウェハ接合法による接合では,熱処理温度が150℃以上では熱応力の影響により試料が破壊してしまう一方,100℃以下の熱処理では強度は小さく,引張試験においても接合界面から容易に破断してしまう.表面活性化法による接合では,これらに比べ大きな強度が得られ,強度測定後の破断面においても,図5のような母村内部からの破断が観察される.なお,図4では比較のために,Si同士の接合体の強度も示している.SiとLiNbO3の接合強度は,Si同士のものより幾分小さいものの,ほぼ同等の接合強度が得られている.破面の様子などから,接合強度の違いは母材強度の違いによるものと考えられる.

     

    図4

    図4 SiとLiNbO3の接合強度測定結果

     

     

    図5

    図5 表面活性化法によるSiとLiNbO3の接合体の破断面

     

     接合においては,強度の他に,未接合部などの接合界面の欠陥についての評価も重要となる.表面活性化法による常温接合では,透過電子顕微鏡による観察から,未接合部や剥離などの欠陥のない均一な接合界面の形成が確認されている.図6は接合界面の断面観察結果の一例である.Si側の接合界面付近には,接合界面に垂直な方向の局所的な歪みの存在を示す,楕円状のコントラストが観察されるが,接合界面にはボイドや剥離などは存在しない.この歪みは,微小な凹凸を持つ接合前表面が,接合界面で密着する際に生じたと考えられる.また,透過電子顕微鏡観察では試料を1μm以下まで薄片化する必要があるが.薄片化過程においても接合界面からの剥離などは起こらなかった.このような局所的な応力分布にも関わらず,接合界面にはマクロにもミクロにも剥離などは観察されなかったことから,接合面全面にわたって均一で大きな強度を持つ接合が得られていることがわかる.なお,観察した試料の接合時の荷重は 0.2〜8 kgf(0.02〜1 MPa)程度と小さく,この程度の荷重でも接合界面において表面間の密着は達成される.これを可能とした要因としては,試料表面が十分に平滑であることと,表面問に働く原子間引力が密着を促進していることがあげられる.

     

    図6

    図6 表面活性化法によるSiとLiNbO3の接合界面の透過電子顕微鏡像

     

     異種材料の接合では,接合界面での格子の不整合が接合特性に影響することがあるが,表面活性化法ではその影響は小さい.これは図7の,表面活性化法による接合界面の高分解能透過電子顕微鏡観察結果から説明される.接合界面には,数nmの非常に薄い中間層が存在しており,この層では両側のSiとLiNbO3に見られる結晶格子の像が見えなくなっている.この部分は,高密度の格子欠陥を含む状態もしくはアモルフアス化しており,これは接合前のArビームによるスパッタエッチングの際に形成されたものと考えられる.このように接合界面には非常に多くの格子欠陥が存在するにも関わらず,先に示したように母材強度と遜色無い大きな接合強度が得られている.このことから,表面活性化法では,接合界面での格子欠陥や不整合は接合強度にはとんど影響しないと考えられ,異種材料の様々な方位の組み合わせでの接合が可能である.SiやLiNbO3では,様々な材料特性が結晶方位に大きく依存するため,結晶方位に制限のない接合法はこれらの材料の特性を最大限に発揮させる上で有利となる.

     

    図7

    図7 接合界面の高分解能透過電子顕微鏡像

     

     以上,真空中でのArビームエッチングを用いた常温接合法による,SiとLiNbO3のウェハの接合について紹介した.この方法では

    ・加熱を必要としないため,熱膨張係数の異なる材料の接合が可能である

    ・接合界面での格子不整合などに関わり無く,様々な結晶方位の組み合わせで接合が可能である.

    ・接合界面での密着達成に外的な加圧を必要としないため,脆性材料や微細な構造の接合にも適用可能である.

    などの特徴を持っている.現在,半導体や機能性セラミックスを中心として,様々な材料への本接合法の適用について検討を進めている.また,微小構造の接合や微細加工プロセスヘの組み込み,それと関連して,ウェハスケールでの一括接合などについても検討してゆく.

                            

    (文責:高木秀樹)

     


    [発表者]
    機械技術研究所 生産システム部 界面制御研究室 高木秀樹
             Tel: 0298-61-7217, Fax: 0298-61-7201

    [連絡先]
    機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武
             Tel: 0298-61-7049, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


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