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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


 

自動車用構造部品への適用による
マグネシウム合金のライフサイクルアセスメント
 

生産システム部 界面制御研究室
佐土 俊一

 

 

機械研 NEWS text fileへ

 

 

概  要

 マグネシウムは,比重がアルミニウムの約2/3,鉄や亜鉛の約1/4であり,比強度,機械加工性,振動吸収性などに優れた特性を持つ.また,資源的にも豊富であり,リサイクルも容易な材料であることから,次世代の軽量構造用材料として各種の産業分野,特に自動車用構造用材料としての用途の拡大が期待されている.

 このため,LCA(ライフサイクルアセスメント)を用いて,マグネシウム合金の環境への影響を評価し,環境負荷低減のための改善策を検討した.検討範囲内の結果では,
  @ 合金の製造段階での環境影響は,機械的切削粉を用いた粉末冶金の場合が最も少ない.
  A 合金を自動車用構造材として適用した場合,材料の製造段階で環境影響値は大きくなるが,車体重量の軽量化で燃料消費率が向上し,使用段階での環境影響値が低減され,ライフサイクル全体の環境影響値は低減される.

ことが判明した.

 今後は,合金の成形加工時のデータを詳細かつ正確に収集し,LCAで問題点を抽出し,より環境影響の低いプロセスヘの変換を検討する予定である.

 

 

図1

図1 LCAの概要

  • 評価の目的と範囲を設定する.
  • 全工程でのエネルギー,物質のインプットとアウトプットを収集し,環境負荷要因に振り分けるインペントリ分析を行う.
  • インパクト評価段階で環境負荷要因が環境へ与える影響のライフサイクルにわたる統合評価を行う.
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    図2

    図2 LCAの境界条件

     

     

    図3

    図3 マグネシウム合金の成形加工法における製品重量1 kgあたりの評価結果

  • 環境影響値及びエネルギー消費量は,材料歩留まり95%の粉末冶金の場合に低く,材料歩留まり50%の鋳造やダイカストの場合には高い.
  • マグネシウム合金の成形加工において環境影響を低減させるためには,リサイクル率の向上並びに材料歩留まりの改善が必要である.
  • 酸化防止用の六ふっ化硫黄(SF6)ガスは,二酸化炭素の24,900倍の地球温暖化作用を持つ.このため六ふっ化硫黄ガスを用いない粉末冶金や鍛造プロセスが比較的環境負荷が少ない.
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    図4

    図4 使用時における環境影響評価

  • 走行距離30,000 km〜40,000 kmで,マグネシウム合金を適用した自動車の環境影響値がマグネシウム合金を適用しない場合(適用率 0%)の値より低くなる.
  • 製造段階(走行距離 Okm)での環境影響値は,適用率10%の場合に約1.6倍,適用率30%のときには約2倍となる.
  • しかしながら,軽量化による燃料消費率向上により使用時の環境負荷が減少するため,環境影響値は,はぼ自動車重量減と比例して,それぞれ約10%,20%低減される.
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    自動車用構造部品への適用による
    マグネシウム合金のライフサイクルアセスメント
     

    生産システム部 界面制御研究室
    佐土 俊一

     

    機械研ニュース NEWS,1999,No.5より
    概要 へ

     

     

    はじめに

     マグネシウムは,比重がアルミニウムの約2/3,鉄や亜鉛の約1/4であり,比強度,機械加工性,振動吸収性などに優れた特性を持つ.また,資源的にも豊富であり,リサイクルも容易な材料であることから,次世代の軽量構造用材料として各種の産業分野,特に自動車用構造用材料としての用途の拡大が期待されている.

     近年,地球環境問題への関心が増大し,燃料消費率向上のための軽量化指向から,マグネシウム合金の自動車用構造材への適用が徐々に増加している.自動車の燃料消費率を向上させるためには,1.車体重量の軽減,2.走行抵抗の減少,3.エンジンおよび駆動系の効率向上がポイントとなるが,特に車両の軽量化は効果的である.このため鉄鋼材料と比較して遥かに軽量なマグネシウム合金を自動車用構造用材料へ適用することは,地球環境問題に対処するために有効であると考えられる.

     今後,マグネシウム合金の実用化を促進するためには,機械的特性などの材料特性を向上させるとともに,マグネシウム合金が,製造,使用,リサイクルを含めたライフサイクルにわたって,どのような影響を地球環境に対して与えているかを評価することが重要である.生産システム部では LCA(ライフサイクルアセスメント)を用いて,マグネシウム合金の環境への影響を評価し,環境負荷低減のための改善策を検討している.

     

     

    分析条件と分析方法

     LCAとは,ある製品について,そのライフサイクル(原料の採取から精錬,加工,輸送,使用,廃棄,リサイクルに至るまで)で消費する資源・エネルギーやその問に発生する環境負荷物質をできるだけ定量的に分析,評価し,環境負荷の低減に向けて改善策を見出すための手法である.LCAの概念を図1に示す.まず,評価の目的と範囲を設定し,次に設定した範囲での関連する全工程でのエネルギー,物質のインプットとアウトプットを収集し環境負荷要因に振り分けるインペントリ分析を行う.インパクト評価段階で環境負荷要因が環境へ与える影響のライフサイクルにわたる統合評価を行う.

     

    図1

    図1 LCAの概要

     

     今回のLCAの境界条件を図2に示す.原材料の採取,物資の輸送,廃棄プロセスは,環境影響の比較をする際,全て同一の影響を与えるものとして,LCAの範囲に入れていない.また,マグネシウムの精錬など日本では行われていないプロセスも含めて,全てのプロセスは日本国内で行われたものと仮定している.また,経済的側面,人間の労力,時間の要因および,加工プロセスでは金型や工作機械などの消耗,リサイクルプロセスでは不純物の影響は考慮していない.

     

    図2

    図2 LCAの境界条件

     

     マグネシウム合金を製造する時の環境負荷の評価対象として,自動車用クラッチハウジングおよびホイールを取り上げた.クラッチハウジングの加工法として,鋳造,ダイカスト,粉末冶金(機械的切削による粉末製造法),粉末冶金(ガスアトマイズによる粉末製造法)を,ホイールの加工法として,ダイカスト,鍛造を選んだ.

     また,マグネシウム合金の使用段階の分析対象として,マグネシウム合金製部品を自動車用構造材として適用した場合を選んだ.マグネシウム製自動車用構造材として,ホイール(鍛造加工),ステアリングコラムおよびその他の部品(ダイカスト)を取り上げ,マグネシウム合金のリサイクル率(リサイクル率=リサイクル材料重量/投入した材料全重量,と定義)を50%と仮定した.この条件で,車体全重量の0%,10%,20%,30%(適用率=マグネシウム合金部品重量/車体全重量,と定義)のマグネシウム合金製部品を使用した自動車の環境影響評価を行った.対象とした自動車は,排気量2,000 ccクラスの乗用車である.マグネシウム合金製部品を適用しない場合の車体重量は1,200 kgであり,適用率30%の場合の重量は1,047 kgとなっている.

     インペントリー分析の結果から,環境影響評価を行う.環境影響評価手法として,エネルギー消費による比較,及びオランダで開発されたエコインディケータ95を用いた.エコインディケータ95は,インペントリー分析から得られる地球温暖化,オゾン層破壊,酸性雨などのカテゴリー毎の環境影響に更に重み付けを行い,一つの統合指標で評価するものである.

     

     

    評価結果ならぴに考察

     マグネシウム合金の成形加工法における製品重量1 kgあたりの評価結果を,図3に示す.この結果から,環境影響値及びエネルギー消費量は,粉末冶金の場合に低く,鋳造やダイカストの場合には高いことが分かる.この評価結果は,鋳造,ダイカスト,鍛造の材料歩留まり(材料歩留まり=製品重量/投入した材料全重量,と定義)は50%であり,粉末冶金の材料歩留まり95%と比較してかなり低いからであると考えられる.また,マグネシウムは,リサイクルに要するエネルギーが新地金の精錬に要するエネルギーの約3.5%と少ない.これらの結果から,マグネシウム合金の成形加工において環境影響を低減させるためには,リサイクル率の向上並びに材料歩留まりの改善が必要であることが分かる.

     

    図3

    図3 マグネシウム合金の加工における環境影響評価

     

     鋳造およびダイカストプロセスにおいて,マグネシウム溶湯表面の酸化防止のための保護ガスとして六ふっ化硫黄(SF6)ガスを使用している.この六ふっ化硫黄ガスは二酸化炭素の24,900倍の地球温暖化作用を持ち,この影響はこれらの成形法に関する環境影響値のおよそ10%から40%を占めている.このため,六ふっ化硫黄ガスを用いない粉末冶金や鍛造プロセスが比較的環境負荷が少なくなっている.

     次に,使用段階の環境影響評価を図4に示す.評価結果から,およそ走行距離30,000 kmから40,000 kmあたりで,マグネシウム合金を適用した自動車の環境影響値がマグネシウム合金を適用しない場合(適用率 0%)の値より低くなり,走行距離が増すにつれて差が開いている.製造段階(走行距離 Okm)での環境影響値は,マグネシウム合金適用率0%と比較して,適用率10%の場合に約1.6倍,適用率30%のときには約2倍になる.しかしながら,軽量化による燃料消費率向上により使用時の環境負荷が減少するため,環境影響値は,はぼ自動車重量減と比例して,それぞれ約10%,20%低減される.

     以上のことから,マグネシウムのライフサイクルにおける環境影響を低減させるためには,マグネシウム合金製造時の環境影響の低減も重要であることが分かる.

     

    図4

    図4 使用時における環境影響評価

     

     

     

    まとめ

     現在までの研究において,以下の点が明らかにされた.マグネシウム合金の製造段階での環境影響は,検討した加工法の中では,機械的切削粉を用いた粉末冶金の場合が最も少ない.また,マグネシウム合金を自動車用構造材として適用した場合,ライフサイクル全体の環境影響値は低減される.その理由は,材料の製造段階で環境影響値は大きくなるが,車体重量の軽量化により燃料消費率が向上し,使用段階での環境影響値が低減されるためである.

     今後は,マグネシウム合金の成形加工時におけるデータを出来るだけ詳細かつ正確に収集し,客観性の高いLCAを行う.その結果からマグネシウム合金のライフサイクルにわたって発生した問題点を抽出し,より環境影響の低いプロセスヘの変換を検討する.

                            

    (文責:佐土俊一)

     


    [発表者]
    機械技術研究所 生産システム部 界面制御研究室 佐土俊一
            Tel: 0298-61-7211, Fax: 0298-61-7201

    [連絡先]
    機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武
             Tel: 0298-61-7049, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


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