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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室
全光学的フィードバック干渉計による
表面形状の実時間可視化・計測
通商産業省 工業技術院 機械技術研究所は,データ処理に時間を要することなく,物の表面の形を逐一実時間で,そして波長よりも短い長さの精度で可視化・計測する方法を提案し,その有効性と実用面についての可能性を明らかにした。
物理情報部 光工学研究室が行った研究では,偏光サニャック干渉計と光書き込み型の液晶空間位相変調素子を組み合わせた新しいタイプのフィードバック干渉計(全光学的な並列フィードバックをもつ偏光サニャック干渉計)システムを試作し,その機能と有効性の検証を行った.この新しいシステムの特徴は,以下の3点に集約される.
(1) 干渉縞パターン自身が,表面形状を直接グレイスケール(中間値)表示するものとなる.
(2) PAL-SLMを導入したことにより全光学的並列フィードバックが実現され,実時間処理が可能となる.
(3) 共通光路干渉計であるサニャック型の干渉計を導入することにより,優れた耐環境性をもつ.
これらの特色は,工場現場でのインライン計測への応用に有効と考えられる.
システムの概要
偏光サニャック干渉計と光書き込み型の液晶空間位相変調
素子を組み合わせた新しいタイプのフィードバック干渉計
全光学的フィードバック干渉計による
表面形状の実時間可視化・計測
物理情報部 光工学研究室 白井 智宏
<概 要>NEWS,1999,No.3 textfile へ
機械研NEWS,1999,No.3 PDF file(269kb) へ
光波の干渉を利用した表面形状の精密計測には長い歴史があり,これまでに多くの手法が研究されてきた.この種の計測には,一般に,二光波干渉計が用いられ,得られる明暗の干渉縞パターンを地図の等高線と同様に考えることにより,表面形状の凹凸分布が決定される.この時,隣接する等高線は1波長(He-Neレーザの場合,約0.6ミクロン)の高低差を表している.しかし,この等高線分布(干渉縞パターン)から,1波長以下の高低差を決定することは本質的に不可能であるため,波長以下の精度の実現には,機械的な走査が必要なヘテロダイン法や,参照光波の位相を変化させた複数枚の干渉縞パターンを解析する位相シフト法といったより複雑な処理を導入しなければならず,システムの簡素化及び計測の実時間性を損なう大きな問題となっている.
そこで,物理情報部 光工学研究室では,物体の表面形状を実時間かつ波長以下の高精度で可視化・計測することを目的として,偏光サニャック干渉計と光書き込み型の液晶空間位相変調素子を組み合わせた新しいタイプのフィードバック干渉計を提案し,その機能と有効性を実験的に検証している1).
一般に二光波干渉計の出力強度は,横軸を二光波間の位相差とすると,コサイン状の周期関数となることが知られている(図1(a)).これは,位相差が2π(1波長に対応)の整数倍の時に出力強度が強め合うことを表しており,干渉縞の明線が1波長毎に引かれた地図の等高線と同一視できる根拠となっている.しかし,図からわかるように位相差が2πより小さい場合には,出力強度から位相差を一意に決定することは原理的に不可能となり,これがさきに触れた波長以下の精度を実現できない根本的な理由となっていた.
この問題を解決するフィードバック干渉計では,任意の二光波干渉計の一方の腕に空間位相変調素子を置き,干渉計の出力強度をその位相変調素子の駆動信号としてフィードバックさせることにより,二光波の位相差にほぼ逆比例した出力強度を得ることができる(図1(b)).その結果,干渉計の出力強度のみから二光波間の位相差を一意に決定することができるばかりか,フィードバックの条件によっては干渉縞パターン自身を二光波間の位相差をグレイスケールで忠実に可視化する『位相差分布の直接表示』と見なすことも可能となる.
図1 二光波干渉計の出力強度
フィードバック干渉計の原理は,20年前にMITの研究グループにより提案されていたが2),当時は性能の良い空間位相変調素子が存在しなかったために,この原理に基づくシステムを実用レベルにまで発展させることは困難であった.しかし,近年の目覚ましい技術的進展に伴い極めて高い性能をもつ空間位相変調素子を利用できるようになり,ここで提案する表面形状の計測システムの実現が可能となっている.
本システムの構成を,模式的に図2に示す.空間位相変調素子としては,光書き込み型の液晶空間位相変調素子PAL-SLM(浜松ホトニクス製)を用いた.この素子は,書き込み側に照射される光強度に依存して,位相変調面から反射した光波の位相を空間的に変化させる働きをもっている.ただし,この位相変調には強い偏光依存性があり,液晶分子の配向方向(図2のシステムでは鉛直方向)に平行な偏光成分の光波にのみその位相変調機能が作用する.
図2 システムの概要
He-Neレーザから導かれた直線偏光の平面波を,その偏光方向を鉛直方向から水平方向に45度傾けてPAL-SLMの位相変調面に入射させる.これは原理的に,偏光の鉛直成分と水平成分に対応する二光波が,同じ光路中にそれぞれ等しい強度で供給されることと等価である.PAL-SLMによって反射された(同一光路中の二つの)平面波は,二光波干渉計の一種である偏光サニャック干渉計へと導かれる.偏光サニャック干渉計(図3(a))では,偏光ビーム・スプリッタPBSの作用により,鉛直偏光成分が干渉計ループを時計回りに回転し,さらに2枚のレンズ(焦点距離L1:20cm,L2:14cm)の作用により,平面波として物体の表面上に結像される(図3(b)).この平面波は物体の表面で反射され,全く同じ経路を通って干渉計の入力側に戻ってくる.この場合の光波は,平面波として物体の表面から反射されるために,物体の表面形状を忠実に反映した位相分布をもつことになる(ただし,反射光のため位相分布が2倍に強調される).一方,水平偏光成分は,干渉計ループを反時計回りに回転し,物体の表面上に鋭くフォーカスされる(図3(c)).反射された光波は,同様に全く同じ経路を通って再び入力側に戻される.この場合の光波は,鉛直偏光成分とは異なり,小さなスポットとして物体の表面から反射されるために,表面形状の影響は受けず元の平面波が忠実に再現されることになる.
図3 偏光サニャック干渉計
これらの二光波を偏光板で結合すると,干渉計の出力として干渉縞が形成される.この干渉縞は,物体の凹凸情報をもつ鉛直偏光成分(プローブ光)と,参照平面波である水平偏光成分(参照光)との干渉によって形成されるパターンである.このパターンをPAL-SLMの書き込み面にフィードバックさせると,PAL-SLMの偏光依存性により,干渉計に供給される二光波のうち鉛直偏光成分のみの位相を変調することになり,フィードバック干渉計が実現される.この場合のシステムでは,フィードバックが全て光学的に,かつ干渉縞強度の2次元分布の全ての要素(CCDカメラで撮影される干渉縞パターンの各画素に対応)が並列にフィードバックされるため,表面形状を忠実に表示する干渉縞パターンが実時間で形成されることになる.また,本システムでは,干渉する二光波が同一の経路を通る共通光路干渉計の一種であるサニャック型の干渉計を導入しているため,機械的振動等の外乱の影響を受けにくい構成となっている.
本システムの動作を確認するための基礎実験として,曲率半径が2400mmの凹型球面鏡の計測を行った.理論的には,フィードバックが無い場合には,図4(a)に示すような動径方向にコサイン状の強度分布をもつ干渉縞パターンが形成される.しかし,図1(a)に基づき述べた理由により,この干渉縞パターンのみからその表面形状を波長以下の精度で再現することは困難である.それに加え,このパターンのみから,測定した球面が凹面か凸面かを判断することも不可能となっている.一方,フィードバックがある場合には,図4(b)に示すような動径方向にノコギリ刃状の強度分布をもつ干渉縞パターンが形成される.このパターンは,フィードバック干渉計の特色である干渉縞強度と位相差の逆比例性を考慮すると,表面形状をグレイスケールで忠実に可視化する『凹凸分布の直接表示』となることがわかる.ただし,表示される表面形状は,プローブ光が反射型であることを考慮すると,半波長毎に折り畳まれた分布となるため,表面形状の三次元構造を正確に理解するためには折り畳まれた分布の再構成が必要となる.また,このようにして再現された表面形状は,実際の表面形状と互いにその凹凸分布が反転した相補的な関係となることに注意する必要がある.図4(b)の干渉縞パターンに基づく表面形状の再構成の例を図5に示す.
図4 球面鏡の計測(理論)
図5 表面形状の再構成
次に,図4の理論計算に対応する実験結果を図6に示す.実験結果にはかなりのノイズ成分が含まれているが,これはPAL-SLMの感度不足によって,期待されるフィードバック効果が得られなかったことに起因するものであると考えられている.しかし,その点を除くと,実験結果は理論的予測に良く一致していることが確認され,本システムの有効性が明らかとなる.
本研究では,実時間かつ波長以下の高精度に表面形状を可視化・計測することを目的として,全光学的な並列フィードバックをもつ偏光サニャック干渉計を構築し,その機能と有効性の検証を行ってきた.この新しいシステムの特徴は,以下の3点に集約される.
(1) 干渉縞パターン自身が,表面形状を直接グレイスケール表示するものとなる.
(2) PAL-SLMを導入したことにより全光学的並列フィードバックが実現され,実時間処理が可能となる.
(3) 共通光路干渉計であるサニャック型の干渉計を導入することにより,優れた耐環境性をもつ.
これらの特色は,特に,工場の現場でのインライン計測に有効に機能するものと思われる.
図6 球面鏡の計測(実験)(理論:図4)
(文責:白井 智宏)
「参考文献」
1) T. Shirai, T.H. Barnes and T.G. Haskel, “Surface profile measurement by means of a polarization Sagnac interferometer with parallel optical feedback,” Opt. Lett. 24 (1999) 297.
2) A.D. Fisher and C. Warde, “Simple closed-loop system for real-time optical phase measurement,” Opt. Lett. 4 (1979) 131.
[発表者]
機械技術研究所 物理情報部 光工学研究室 白井 智宏
Tel: 0298-61-7094, Fax: 0298-61-7091
[連絡先]
機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則
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