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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


 

マイクロ引張試験片の製作
Fabrication of Micro a Tensile Testing Specimen 

生産システム部 複合加工研究室 和井田 徹
TEL:0298−61−7207

 

機械研ニュース NEWS,1999,No.10より

はじめに

 近年,狭小な空間で複雑な作業を行う産業用,医療用マイクロマシンの開発研究が始まった.工場設備のメンテナンス手法や,医療手法に革新をもたらすものとしてマイクロマシンへの期待は大きい.

 マイクロマシンのような微小な機械システムの開発には,微細な機械部品を製作する加工技術と共に,マイクロ構造材料の強度特性評価技術が必要となる.生産システム部複合加工研究室では,従来の研削加工法の微細化,微小化により微細部品を製作するマイクロ研削加工技術とマイクロ構造材料の加工面性状が強度に及ぼす影響について研究を進めている.

 研削加工には高精度の加工が可能で,3次元形状に対応できる,超硬合金やセラミックスなど高硬度材料から非導電性材料まで加工できる,など多くの特徴がある.その一方で,加工力をともなう機械加工では,微細部品の変形による加工精度の低下や折損が生じ易く,マイクロ加工が困難になるという共通の問題点があり,より微小な加工を可能にするためには機械加工における加工力の低減が非常に重要となる.しかし,加工力の観点から研削加工について考えると,研削加工は多数の切れ刃により非常に微小な切りくずを出しながら材料除去を行う加工法であり,他の機械加工法に比べて加工力を低く抑えることが可能であり,高精度マイクロ加工が期待できる.

 数十マイクロメータオーダの微細な機械部品の場合,部品の大きさに比べ,加工面の表面粗さが非常に大きく,部品の強度が極端に弱くなる可能性がある.そこで,マイクロ構造材料の強度特性評価の一つとして,加工面性状が強度に及ぼす影響について調べるために,まずマイクロ引張試験片の製作法について検討した.総形研削加工を適用し,そのための総形ダイヤモンドホイールの創成方法とそのホイールによる試験片の製作結果について紹介する.

 

<マイクロ引張試験片の形状>

 図1に,マイクロ引張試験片の形状及び寸法を示す.形状はJIS Z 2201に規定する4号試験片を参考に,当所で開発した薄膜用引張試験装置1)で測定が可能な形状及び寸法とした.また,円筒形状を確実に把持し,かつ容易に同じ位置に固定できるように試験片両端に頭部を設け,引張試験装置に設けたU字溝形チャックに頭部をひっかけ,引っ張ることができる形状とした.

図1

図1 マイクロ引張試験片の形状及び寸法

 

 

<総形ダイヤモンドホイールの創成方法>

 図1に示す形状及び寸法をもったマイクロ引張試験片を一定量製作するには,総形ホイールによるプランジ研削加工が適している.しかし,微細な寸法,形状をダイヤモンドホイールに直接創成することは非常に困難である.そこで,メタルボンドダイヤモンドホイールに対して,回転電極を用いた放電ツルーイング法2)による形状創成を試みた.

 図2に,総形ダイヤモンドホイールの創成とマイクロ引張試験片の製作工程(a)〜(e)を示す.工程(a)は,比較的加工が容易な方形完成バイト(高速度工具鋼SKH51,10mm角)に対し,研削加工によってマイクロ引張試験片の輪郭を創成し,総形バイトとする.次に,この総形バイトを用いて,この形状を旋削加工によって高精度放電加工用グラファイト(直径50mm,厚さ10mm)に転写する.工程(b),(c)では,このグラファイトを回転電極(−極)として,平形のメタルボンドダイヤモンドホイール(外径50mm,厚さ5mm,+極)を放電加工することによって,総形ダイヤモンドホイールを作る.

 このような工程を繰り返すことによって同一形状,同一寸法の総形メタルボンドダイヤモンドホイールを多数個創成することができる.

図2

図2 総形ダイヤモンドホイールの創成及びとマイクロ引張試験片の製作工程(a)〜(e)

 

 工程(d),(e)では,このホイールを用いて,各種試験材料に対してマイクロプランジ円筒研削加工を行うことによって,マイクロ引張試験片を多数個作ることができる.

 実際の総形ダイヤモンドホイールの創成は卓上旋盤を改造した放電形状創成装置3)で行った.この装置はサドル上面にダイヤモンドホイール駆動装置,主軸に回転電極,刃物台に電極を成形する総形バイト,から構成され,放電加工用電源には回転電極及びダイヤモンドホイールがブラシを介して接続されている.

 加工面の表面粗さが異なる試験片を製作する方法として,ダイヤモンドホイールの粒度による効果(粒度が高くなると,平均砥粒径が小さくなり,切れ刃密度が高くなる.加工条件が同じであれば,表面粗さは小さくなる)を期待し,粒度#400(砥粒径約40μm),#600(同26μm),#800(同20μm),#1000(同16μm)の4種類について,総形ダイヤモンドホイールを創成した.これらのダイヤモンドホイールを用いて,超微粒合金(TF15),高速度工具鋼(SKH51),ステンレス鋼(SUS304),銅合金(C3604)の4種類の試験片材料について,マイクロ引張試験片の製作を試み,その形状精度と表面粗さについて検討を行っている.

 

<マイクロ引張試験片の研削方法>

 マイクロ引張試験片の製作は直径0.5mm,長さ25mmの試験材料を用いてマイクロ円筒研削装置4)によって行った.本装置は小型精密旋盤で,2段スライド式刃物台に研削アタッチメントを装着している.加工中,加工力によって工作物に変形や折損が生じることのないように,ダイヤモンドホイールと工作物の接触点を上方と側面の二方向から顕微鏡またはTVモニタで常時観察しながら,ダイヤモンドホイールの切込みを手動で操作している.

 工作物の保持方法は,通常の研削では,工作物の形状に応じてセンタレス,両センタ,あるいはワークレストなどを用いているが,マイクロ研削加工では,直径50μm,長さ数ミリメートルの微小な工作物を対象とするためにこれらの方式をとることが困難である.また作業性の点からもコレットチャックによる片持ち保持とし,乾式プランジ研削加工を行っている.

 図3に,製作したマイクロ引張試験片(高速度工具鋼SKH51,ダイヤモンドホイール粒度#600)の例を示す.加工力による試験材料の変形(逃げ)のため,写真の左側(コレットチャックで保持した側)がやや細く,テーパ状になっているのがわかる.平行部分の寸法は左側から,0.083mm(標点位置),0.093mm(中央部),0.103mm(標点位置)であった.

図3

図3 製作したマイクロ引張試験片
(高速度工具鋼SKH51,SD600N100MB2)

 

 

<形状精度及び表面粗さ>

 引張試験片平行部の形状精度は投影機により30倍に拡大したシルエットから,その直径寸法を読みとっている.

 図4に,高速度工具鋼(SKH51)を試験材料とし,ダイヤモンドホイールの粒度を#400,#600,#800,#1000と変えてマイクロ引張試験片を製作した場合の形状精度を示す.粒度#600では,最も細く,太さも均一な試験片を作ることができた.しかし,他の粒度では標点間の寸法差は25μm程あり,コレットチャックのチャッキング部分から離れるほど太くなる傾向を示した.また,砥粒径が小さく(粒度が大きく)なる程,試験片を折損せずに加工できる寸法は大きくなる傾向を示した.

 これは試験片を片持ち保持で加工していること,試験片の両端部に平行部分より寸法の大きな頭部を持っていること,などに起因しているもの思われる.今後はこの両頭部を利用して,加工力による変形を少なくする保持方法を考える必要がある.

図4

図4 ダイヤモンドホイール粒度と形状精度 

 

 表面粗さの測定は,走査型電子顕微鏡(SEM)付属の電子線3次元粗さ解折装置によって測定を行った.中央部及び両標点位置の3個所を測定対象面として,2000倍まで拡大し,カットオフ値0mm,評価長さ(引張試験片長さ方向)60μmの測定条件で,円周方向に0.25μm間隔で181回測定し,その平均算術平均粗さ(Ra)と平均最大高さ(Ry)を求めた.

 図5に,銅合金(C3604)に対して,粒度#400〜#1000のダイヤモンドホイールを用いてマイクロ引張試験片を製作した場合の表面粗さ(平均最大高さ(Ry))を示す.測定位置によるばらつきも小さく,ホイール粒度による表面粗さの差も出ており,表面粗さの異なる引張試験片製作の可能性を示唆しているものと考える.

図5

図5 ダイヤモンドホイール粒度と表面粗さ

 

 なお,前述したように,部品の大きさに比べ,加工面の表面粗さは非常に大きく,あたかも材料内部に多数の亀裂が入った状態と同じように考えられ,引張試験を行った場合,最も大きな亀裂(表面粗さ)の入った部位や平行部分の形状が均一でない場合は最も寸法の小さな部位から破断すると思われる.したがって,個々の試験片に対して,均一な形状,均一な表面粗さをいかに創成するかが今後の課題となる.

 

「参考文献」

1)小川博文,石川雄一,北原時雄:微小寸法材料の引張試験法,機械技術研究所所報,49,2(1995)58.

2)鈴木清,植松哲太郎,柳瀬辰仁,浅野修司,谷口浩治,中川威雄:マシニングセンタによる硬脆材料の研削加工(第16報)−回転電極による機上放電ツルーイングの条件,昭和63年度精密工学会春季大会学術講演会論文集,(1988)505.

3)池田悟至,和井田徹,岡野啓作:マイクロ研削加工,山口県工業技術センター研究報告,11(1999)20.

4)和井田徹,岡野啓作,須藤徹也,水野潤:マイクロ円筒研削加工−マイクロ研削技術の研究 (第1報),機械技術研究所所報,52,3(1998)103.

 

 

図1

図1 マイクロ引張試験片の形状及び寸法

 

図2

図2 総形ダイヤモンドホイールの創成及びとマイクロ引張試験片の製作工程(a)〜(e)

 

図3

図3 製作したマイクロ引張試験片
(高速度工具鋼SKH51,SD600N100MB2)

 

図4

図4 ダイヤモンドホイール粒度と形状精度 

 

図5

図5 ダイヤモンドホイール粒度と表面粗さ

 

 


[発表者]

機械技術研究所 生産システム部 複合加工研究室 和井田 徹

         Tel: 0298-61-7207, Fax: 0298-61-7201

[連絡先]

機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則

         Tel: 0298-61-7049, Fax: 0298-61-7033

         chisaka@mel.go.jp,ishizuka@mel.go.jp

 


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