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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室

 


 

通信路を利用するロボットの遠隔操作

ロボット工学部 感覚制御研究室 小森谷 清

 

機械研NEWS,1999,No.1より

機械研NEWS,1999,No.1 PDF file(306kb) へ

   

 近年の情報通信技術の発達と一般への普及は目を見張るものがある.このような技術を基に家庭やオフィスに居ながらにして様々な画像や音声などのマルチメディア情報に容易に接することができる状況になりつつある.こうした情報に加えて力や運動などの物理的な相互作用を伝達することができると,これまで難しかった各種のサービスが可能になると期待される.図1は通信回線とロボット技術とを組み合わせることによって各種のサービスが可能になる様子を示したものである.各種のロボットを通信回線に結びつけ,通信回線を介して遠隔制御することによって,作業・保守,医療・介護など様々な作業をすることができれば,我々の生活に多くの利便が得られるのではないかと予想される.こうしたシステムはネットワークや通信路からみればその付加価値をたかめることになり,一方ロボット技術からはその適用範囲を大幅に広げられることになり,相互に大きな効果を生むものと期待される.

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図1 通信回線を利用した遠隔制御

通信回線とロボット技術とを組み合わせることによって各種のサービスが可能になる.

作業・保守,医療・介護など様々な作業が遠隔制御できれば,我々の生活に多くの利便が得られる.

 

 このような状況,および期待を背景として,ロボット工学部感覚制御研究室及びバイオロボティクス研究室では,(株)東芝機械システム研究所や電気通信大学と共同で,通信回線を利用するロボットの遠隔操作のため,技術課題の検討とその解決手法の確立を目的に研究を進めている.今回,特に容量に制約のある通信回線の効率的な利用法について,遠隔操作実験環境を構成して,実験的に検討を行った.

 遠隔操作は元々,原子力発電所で危険物などを扱う際に利用されている.こうした用途では,操作者とロボットを結びつける通信路は必要な容量を持つものが専用に設計される.したがって,操作者とロボットの間でやりとりする情報量に関する制約を意識する必要はない(図2(a)).これに対して,電話回線やインターネットのような計算機ネットワークを通信路として利用する場合は,通信路の容量があらかじめ定まっており,通常,それは遠隔操作に必要とする通信容量に比較してかなり低いため,大きな制約となる.すなわち,操作者とロボットの間でやりとりすることのできる情報量に制限が加えられロボットの操作性が低下するという問題が発生する.このため,通信路を効率的に利用し,操作性を向上させる手法の開発が必要である(図2(b)).

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図2 従来の遠隔制御(上)と通信回線を利用した遠隔制御(下)

従来の遠隔制御(上):危険物などを扱う際などは,操作者とロボットの間の通信路は必要容量で専用に設計される.

通信回線を利用した遠隔制御(下):電話回線やインターネットのような既存の通信路を利用する場合は,通信路容量が定まっているので,操作性を向上させるため通信路を効率的に利用する必要がある.

 

 ロボットをマスタ・スレーブ方式で遠隔操作する際に最低限必要な情報は,操作者側からロボットヘは動作指令,ロボット側から操作者側へはロボットと作業対象の様子をとらえた画像情報,及びロボットの感じている力情報である.特に,後者は大きな情報量を持つ画像情報と高い実時間性を要求する制御情報を同時に伝送しなければならないため,検討を要する.すなわち,通信容量に制限がある場合,画像情報をロボットが動く様子を素早く確認できるように十分な程度に送信すると,制御情報は力フイードバックを行うのが困難になる程度までしか送信できなくなる.逆に,精密な力フイードバックを行える程度に制御情報を送信すると,画像情報はロボットの動きを確認するのに困難な程度にまでしか送信できなくなるというトレードオフの関係が生じる.

 ここで,ロボットの遠隔操作で行う作業を考えると,作業の内容によって最も必要とされる情報が異なることが分かる.例えば,物体を把持して空間を移動させる作業では,物体の位置を把握するために画像情報の必要性が高いが,空間を移動することから力の情報の必要性は低い.ピンを穴に挿入するような環境から拘束を受ける作業では,ピンと穴との間に働く力を調節するために力の情報の必要性は高いが,ピンは拘束されて大きく動く ことはないため,画像情報の必要性は低い(図3).このような特徴を利用して,作業の内容にあわせて,そのとき最も必要となる情報を優先的に送信すると,通信回線を有効に利用しつつ,操作性を向上することができると考えられる.

 作業の内容にあわせて通信回線に送り出す情報の組み合わせを自在に変化させる手法を実際に導入した遠隔操作システムを構成し,その有効性を検証する実験を行った.

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図3 作業内容による情報の必要度の変化

作業の内容にあわせて,そのとき最も必要となる情報を優先的に送信すると,通信回線を有効に利用しつつ,操作性を向上することができる.

 

 実験システムとして機械技術研究所(茨城県つくば市)には,操作者に力の感覚を伝えることができる操縦桿(マスタアーム),カメラの選択・ロボットの指の開閉・優先する情報の切り替えを指示するフィットスイッチ,画像を表示するディスプレイ,これらをコントロールしロボット側との通信をするワークステーションを設置した.(株)東芝機械システム研究所(神奈川県川崎市)には7つの関節を持つロボット(スレープアーム)とロボット全体を写すカメラ及び手先を拡大して写すカメラ,これらをコントロールし操作者側との通信をするパーソナルコンピュータを設置した.双方を結ぶ通信回線には一般家庭にも普及しつつあるISDN回線(容量64kbps)を採用し,通信方式には広く利用されているTCP/IP方式を利用した.また,作業対象としてはバルブの開閉や扉の開閉など環境から拘束を受けながら操作する作業の例として,すなわち,円形のレールに沿って動くハンドル操作を取り上げた(図4).この作業では,まず空間を自由に移動してハンドルを掴んだ後,レールに沿ってハンドルを動かす.ハンドルを掴む作業は多くの画像情報を必要とする作業であり,レールに沿ってハンドルを動かす作業は力の感覚すなわち制御情報を多く必要とする作業である(図5).

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図4 実験システム

操作者側(つくば市):操作者に力の感覚を伝えることができる操縦桿(マスタアーム),カメラの選択・ロボットの指の開閉・優先する情報の切り替えを指示するフィットスイッチ,画像を表示するディスプレイ,制御しロボット側と通信するワークステーション

ロボット側(川崎市):ロボット(スレープアーム)とロボット全体を写すカメラ,手先を拡大して写すカメラ,制御し操作者側と通信するパーソナルコンピュータ

 

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図5 ハンドル回し作業

<作業例>バルブの開閉や扉の開閉など環境から拘束を受けながら操作する作業(円形のレールに沿って動くハンドル操作)

 

 操作者は操縦桿を動かして遠隔地のロボットを操作し,ハンドル回し作業を行う.このとき,画像情報を優先するモードと制御情報を優先するモードの切り替えを手動で行い,作業内容によって通信回線に送り出す情報を変化させることによる効果の確認を行う.画像情報を優先するモードでは,画像は約1秒に1回更新され,ロボットの動きを目で素早く確認することができるが,制御情報の更新周期は約7.0Hzと低下するため,操作者に力情報の提示は行わない.これに対し,制御情報を優先するモードでは制御情報の更新周期が14.2Hzとなるため,ロボットの感じている力の感覚を操作者に提示できるが,画像は約4秒に1回の更新となるため,ロボットの動きを目で素早くとらえることは困難になる.

 実験では次のようにモードを切り替えて作業を行い,各モードに適する作業内容を検討した.  @画像情報の優先モードのみで全作業を行う.
 A制御情報の優先モードで全作業を行う.
 B優先するモードを自由に切り替えて全作業を行う.

 @では,ハンドルを掴む作業は,ハンドルとロボットの手先の相対的な位置を目で素早く確認することが可能であるため,作業を容易にこなすことが可能であった.しかし.レールに沿ってハンドルを動かす作業は.レールによる拘束感を感じることができないため,視覚による情報のみでレールに沿う運動をすることが難しく,作業の達成が困難であった.

 Aでは,@とは逆に,ハンドルを掴む作業が困難であったが,レールに沿ってハンドルを動かす作業は容易であった.

 Bでは,画像情報を優先するモードでハンドルを掴む 作業を行い,制御情報を優先するモードでレールに沿ってハンドルを動かす作業を行うと,全体の作業を容易にこなすことが可能であった.

 以上のことから,作業の内容により送受信するデータを自在に変更することで,通信回線を有効に利用し,ロポットの操作性を向上することができ,本手法が有効であると確認された.

 誰でも容易に遠隔操作が利用できるシステムの実現を目指して,通信回線を介した遠隔操作情報の効率的な伝送手法を検討した.今後は優先モードの自動的な切り替え法,様々な作業についてどのような割合で情報を分配するかなど,残された課題の検討,および,複数の離れた場所にいる操作者が一カ所にある複数のロボットを遠隔操作して,離れた場所に居ながら協調して作業を行うことができるシステムなどの検討を行う予定である.

(文責:小森谷 清)

 


 

[発表者]

機械技術研究所 ロボット工学部 感覚制御研究室 小森谷 清

         Tel: 0298-61-7086, Fax: 0298-61-7275

[連絡先]

機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則

         Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033

         chisaka@mel.go.jp,ishizuka@mel.go.jp

 

 


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