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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


 

キャスティングマニピュレータの提案と
そのスイング制御法
 

ロボット工学部 感覚制御研究室 有隅 仁

 

機械研ニュース NEWS,1998,No.11より

研究の背景

 野外作業用のロボットの研究は,農業,土木・建設業,宇宙開発など幅広い分野で進められている.このような作業環境で要求される特性の1つに,広い作業空間を持つことがあげられる.この特性をマニピュレータ自体に取り込むためには,まず,マニピュレータの関節の数を増やしたり,各リンクの長さを伸ばす方法が考えられる.しかし,増えた関節の数やリンク長に比例してサイズ,重量も大きくなり,作業効率も悪化するというデメリットが生じる.また,マニピュレータを移動ロボット上に搭載して作業範囲を拡大するモーバイルマニピュレータのような方法もある.しかし,急な傾斜面,深い窪み,沼地,木の上など,従来の車輪,脚,クローラなどの移動機構を併用しても到達できない場合がある.

 一方,人は「投げ縄」や「投げ釣り」など,自ら近づくには困難な場所に分散する獲物を,縄,紐,糸といった柔軟物体をうまく利用することにより獲得してきている.ロボットシステムにこのような方法を取り入れることができれば,作業空間の大幅な拡大が期待できるとともに,本体の移動に関するエネルギーも節約できる.このようなシステムは,宇宙,海洋,森林,牧畜など広範囲の空間内での作業を必要とする分野への応用の可能性がある.

 ロボット工学部感覚制御研究室では,従来のマニピュレータに比べて,機構がシンプルでありながら,作業範囲が大きくとれるといった特長を持つ新しい形態のマニピュレータとして,リンクの一部に柔軟な紐を含むキャスティングマニピュレータを提案し,その動作制御に関する基礎研究を行っている[1]

 

キャスティングマニピュレータの機構

  機構の簡素化を考慮した2リンク型キャスティングマニピュレータの構成を図1に示す.マニピュレータは,釣り竿に対応する金属プレートなどで作られるリンク(ただし 釣り竿のようには撓まない)と釣り糸に相当する紐から構成される.針にあたる把持機構(グリツパ)が紐の先に取り付けられている.リンクの根元にはサーボモータを備え,リンクのスイングを駆動する.紐は図のようにリンクを通して外部に引き出され,ストッパーによって拘束される.ストッパーを解除することによって,紐を繰り出し,グリツパを投射することができる.さらに紐を繰り出し/巻き取る機構(ドラム)も備えている.

図1

図1 2リンク型キャスティングマニピュレータ

 

 

キャスティングマニピュレーションの動作

 このロボットによる物体捕獲動作(キャスティングマニピュレーション)は図2に示すように以下の5段階の動作から構成される.ただし,これらの動作については重力が働く環境を想定している.


@スイング動作:マニピュレータ全体をスイングさせ,グリッパが目標物体へ到達するのに必要な運動を与える.
Aリリース動作:適切なタイミングで紐の拘束を解放し,紐を繰り出しながらグリツパを投射する.
B姿勢制御動作:目標物体を把握できるように投射中に紐の拘束を調整してグリッパの姿勢を制御する.
C捕獲動作:目標物体を把握する.グリツパは目標物体との衝突によって相手を把持する構造を持つ.
D巻き上げ動作:把握した目標物体を回収するために,紐の巻き取りとリンクの回転運動を制御する.

図2

図2 キャスティングマニピュレーション

 

 

スイング動作

 本報では,キャスティングマニピュレータの動作制御の第1段階として,@のスイング動作について紹介する.

 図1に示すようにこのマニピュレータの関節2はモータのような関節を駆動する機構を持たない関節である.このようなアクチュエータを持たない関節を有するマニピュレータの振り上げや空中移動ロボットの励振などのスイング動作制御については研究例があるが,これらの制御法では,紐の張力を正に保たなければならないという条件を考慮する必要がないため,その方法をキャスティングマニピュレータに適用することはできない.すなわち,キャステイングマニピュレータでは,紐が不定形で非常に柔軟であり,張力しか保持できないという特性を十分に考慮する制御法が必要である.

 また,リンク根元のアクチュエータによってリンク,および紐の運動の両者を制御しなければならない.一方,関節1,2の両方の運動を独立に制御することはできず,関節1,2のいずれか1つの関節の運動を制御すれば,他方の関節の運動が従属的に定まる特徴がある.こうした条件を考慮し,また,グリッパを投射するタイミングを決定しやすいように関節2にθ=0という拘束条件を実現するよう関節1をトルク制御する.このとき,関節1の関節角θと関節角速度θの関係は図3のように書き表せる.ここで関節角θは横軸,関節角速度θは縦軸である.図からマニピュレータの運動は灰色に塗られた領域で示される周期的な往復運動(振り子運動(モード(a)))と,その外側の領域の一定方向への回転運動(モード(b))の2つからなることが分かる.

図3

図3 相線図

 

 

グリッパ投射時の安定性

 これまでの研究では,グリッパ投射時の安定性を考慮して,モード(a)にあたる振り子運動をスイング動作として選択して研究を進めている.

 与えられる様々な目標点にグリツパを投射するためには,それに対応した振幅を持つ振り子運動を生成する必要がある.すなわち,図3の相線図で,ある大きさの楕円運動から他の楕円運動へ自在に遷移できなければならない.この遷移は関節2の角度を規則的に変えることによって実現可能である.

 たとえば,スイングの回転方向に対して,関節1とグリツパを結ぶ直線より,関節2の位置が進んだ状態にすると,張力がグリッパの運動を助長する方向に働くためにグリツパは加速される.一方,関節1とグリッパを結ぶ直線より,関節2の位置が遅れる状態にすると,張力がグリッパの運動を抑制する方向に働くためにグリッパは減速される.したがって,関節2の位置をサイクロイド曲線のような滑らかな適切な形で変化させることにより,振り子運動の振幅を変えることが可能となる ただし,振幅を振り子運動の半周期で大きく変えることは紐の張力を正に保てず,紐が緩むもとにもなる.したがって,半周期で変える振幅の大きさを適切に半周期毎に与えるように計画する必要がある.

 また,振幅の制御精度をよくするために目標振幅の近くでは,目標振幅と実際の振幅との誤差をフィードバックする必要もある.

 

振り子運動における目標振幅生成のシミュレーション

 これらの考慮を加え,静止状態から目標振幅80degの振り子運動を生成するシミュレーションを行った結果を図4(a)に示す.図中の黒丸は,スイングの端となった状態を表す.また,張力の変化を図4(b)に示す.図4から紐が弛まずに8回目のスイングで目標値に収束することが分かる.

図4

図4 シミュレーションおよび実験結果 

 

 

スイング制御実験

 制御手法の効果の確認に 図5に外観を示す実験装置を試作してスイング制御実験を行った.リンクの駆動にはトルク制御が容易なダイレクトドライブモータと高分解能のエンコーダを組み合わせた機構を用いた.

 シミュレーションに対応した静止状態から80degの振り子運動を生成する実験を行った.得られた実験結果を図4(c)に示す.同図に示すように目標振幅に8回目のスイングでほぼ到達し,その後、関節2は振幅約3degの小さい振動をするが,関節1への影響は非常に少ないことが分かった.以上の実験結果がシミュレーションの結果と非常によく一致していることから,提案する手法の有効性が実験的に検証されたものと考えられる.

図5

図5 実験装置の外観

 

 

まとめ

 本研究では,これまでに機構の一部に紐のような不定形で柔軟かつ長さを変えられるリンクを有する新しい形態のマニピュレータである「キャスティングマニピュレータ」を提案し,基本的な構成として2リンクからなる実験システムの試作を完了した.また,物体捕獲の基本動作であるスイング動作に関して,駆動関節の数が全開節よりも少ない,紐では圧縮力を保持できないという2つの特性を考慮して,任意の振幅の振り子運動を生成する運動計画手法を提案し,シミュレーションおよび実験によって提案する運動計画手法の有効性を検証した.今後は,目標物体を捕獲するためのグリッバの投射方法について検討する予定である.

 

「参考文献」

[1] 有隅,神徳,小森谷,”キャスティングマニピュレーションに関する研究(第1報 可変長紐状柔軟リンクを有するマニピュレータの提案とそのスイング制御法”,日本機械学会論文集(C編),vol.64,No.626,1998.

 


[発表者]

機械技術研究所 ロボット工学部 感覚制御研究室 有隅 仁

         Tel: 0298-61-7282, Fax: 0298-61-7275

[連絡先]

機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則

         Tel: 0298-61-7049, Fax: 0298-61-7033

         chisaka@mel.go.jp,ishizuka@mel.go.jp

 


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