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通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室
圧電性薄膜アクチュエータ製造法に
レーザ・マイクロマシンのキーテクノロジー
生産システム部 界面制御研究室 菊地 薫
機械研ニュース NEWS,1998,No.10より
1.薄膜アクチュエータはマイクロマシンのキーデバイス
血管などの微小な空間を移動する機械または多くの自由度を持つシステムを構築する場合,センサー機能を持つ微小で強力なアクチュエータの製作が必要である.初めは,このようなデバイスは静電力によって駆動するものが主で,半導体集積回路製造技術によってセンサーやアクチュエータを製作していた.しかし静電力のアクチュエータは,大きなエネルギー損失,製作に高精度を必要とする,制御が困難であるなどの欠点がある.これに対し,圧電性を持つ材料で製作されたセンサーやアクチュエータは材料自体にアクチュエータ機能とセンサー機能を同時に備えているため,静電原理で駆動するセンサーやアクチュエータの欠点を克服することができると考えられる.その応用例としては,マイクロミラー素子,メンブレンタイプのマイクロポンプ,AFM(原子間顕微鏡)のカンチレバー等がある.このようなデバイス材料の有力な候補は優れた圧電性を示すPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)であり,その薄膜の製作はマイクロマシンにおける重要なテーマである.
2.厚さ数ミクロンが実用上の課題
PZT薄膜形成法は主に2つに分類される.気相ないし液相におけるコーティングを利用する方法およびPZTのバルク材を機械的に研磨する方法である.後者の場合,研磨した薄膜と基板を張り付けることが技術的に困難であり,この方法を用いてマイクロマシンを製造する場合の大きな障害となる.また接着層はしばしば大きな緩衝作用を持ち,デバイスの特性を著しく悪化させる.
PZT薄膜製造においてスパッタリングはよく知られた方法であるが,一般的に被膜生成速度が遅い.公表された最大速度は1時間で1ミクロンである.また最近では被膜の性質が優れることと経済性から,ゾルゲル法が半導体メモリの応用の分野において広く用いられているが,1〜2ミクロンの膜厚を得るために10回以上のスピンコーティングとそれを各々各層毎に焼成するプロセスが必要である.1回のスピンコーティングおよび焼成には少なくとも1時間以上かかり,10回の作業は,非効率的な上にコンタミネーションや焼成による薄膜内の残留応力の積み重ねによって基板と薄膜が最終工程で剥がれる等の欠点がある.いずれにしても,マイクロアクチュエータとして必要な力を得るためには機械加工および半導体製造技術では困難な1〜100ミクロンの範囲の厚さが必要である.
3.エキシマレーザ法なら1時間に3ミクロン
生産システム部界面制御研究室では,PZT薄膜の生成法として膜性能の向上および膜生成速度が数ミクロン毎時という高速析出が期待されるパルスレーザアブレーション法(PLAD:Pulsed Laser Ablation Deposition)を検討している.
実験装置は図1のような構成で,レーザ発振器,薄膜生成チャンバーから成り立つ.チャンバー内には3インチウエハーが装着可能な回転試料台とターゲットが6個装着可能な公転および回転機構のターゲットホルダーを持つ.試料を回転することにより,均一な膜を生成することが可能である.また試料は,試料台のCBNヒータで1273Kに加熱することができる.ArFエキシマレーザ光(波長193nm),KrFエキシマレーザ光(波長248nm)およびYAGレーザ3倍高調波(波長355nm)が石英(SUPRASILU)窓からチャンバー内へ導入される.真空排気系はロータリーポンプとターボ分子ポンプにより室温で10−7Paに排気することが可能である.高速原子ビーム源(Ion Tech Ltd.,FAB110)は試料基板のクリーニングと成膜中に酸素原子を供給するのに用いる.高速原子ビーム(FAB)で処理中の真空度は6×10−3Pa,その時に印可される電圧は1〜1.3kv,測定された電流は20mAである.ターゲットと試料の距離は約8cmである.
図1 実験装置の概要
レーザシステムはエキシマレーザおよびYAGレーザより構成され,測定された最大出力は各々400mJおよび900mJである.パルス繰り返し周波数は10Hz,2枚の45度全反射ミラーと1枚のレンズを通った石英窓直前の出力は120mJおよび600mJに減少する.KrFエキシマレーザに対しての石英窓の透過率は90%以上で,ターゲット上でのビーム径は約1mm,その時のエネルギー密度は2から5J/cm2である.
試料は市販のn型半導体で(100)結晶方位の3インチウエハーを用い,ターゲットは同様に市販のPZT(Furuuchi Co,PZT F−13,誘電率1800,圧電定数180)で,化学組成はPb(Zr0.52 Ti0.48)O3,直径は,20mmφ,厚さ5mmである.試料は最初にその酸化層(SiO2)が1.5ミクロンになるまで酸化し,その後,下部電極を作るために50nmのチタンと100nmの白金をスパッタリングにより成膜する.PZT薄膜をパルスレーザアブレーションによって成膜し,最後に厚さが100nmのCr/Au膜を真空蒸着法により成膜し,上部電極を形成する.
膜厚は表面粗さ計(Tokyo Seimitsu,Surfcom)により測定した.図2は粗さ計による生成薄膜の形状である.膜厚は,レーザ発振器の状態,光学系の反射率・透過率,そして特にレーザが入射するチャンバーの窓の状態に大きな影響を受ける.成膜したPZT薄膜の平均的な厚さは1時間に1.5ミクロン,最高で3.5ミクロンに達する.
4.他と比較して遜色ない物性
PZT薄膜生成における,特性の向上のために,成膜時の雰囲気,FAB処理およびアニーリング温度について検討した.成膜は真空雰囲気(l0−6Pa),酸素雰囲気(02,10−2〜102Pa),酸素FAB照射(02,0.1Pa,1kv,20mA)についてそれぞれ行った.
成膜時間は1時間,パルス数にして36000shotsである.実験ではPZT膜は室温で形成されたが,大部分の公表された結果においては,成膜時の試料は加熱されている.室温での成膜を検討したのは,工業的な観点からの容易さのみではなく,将来フォトレジストを用いてパターンを形成する場合において,100℃以上の加熱が困難であるからである.
アニーリングは成膜後大気中で行い,薄膜の結晶構造の解析はX線回折装置(Rigaku RINT 200)で行った.成膜条件の異なる薄膜のX線回折スペクトルにはペロブスカイトおよびパイロクロア(黄緑石:pyrochlore structure)結晶構造が現れる.多くの強誘電体および超伝導体の構造は図3に示すようなペロブスカイト構造を示し,優れた圧電特性を示すためにはペロブスカイト構造が支配的でなければならない.
図3 ペロブスカイト構造
成膜時のPZT薄膜はいずれもアモルファス構造を有し,真空中および酸素雰囲気中で成膜後アニーリングした薄膜はパイロクロアが支配的である.しかし,FAB処理した試料はアニール後,ペロブスカイト構造を示しパイロクロアはわずかに検出されるのみでFAB処理が有効であることは明らかである.図4は生成被膜のX線回折結果であり,Pvはペロブスカイトの結晶構造のスペクトルおよびPyはパイロクロアの結晶構造を示す.アニーリングによってペロブスカイト相の出現が認められる.
図4 生成したPZT膜のX線回折結果
図5に示すマイクロファブリケーションプロセスによりカンチレバー構造を製作し圧電特性を測定した.まずはじめにシリコン基板を熱酸化によりSiO2で被覆し,下部電極のTi/Ptを形成する.そしてPZT層をエキシマレーザアブレーション法により被覆してCr/Pt上部電極を形成した後,大気中において923Kで1時間アニーリングした.
図5 マイクロカンチレバーの製作工程
リアクティブイオンエッチング(RIE,Reactive Ion Ethcing,エッチングガスSF6,Ar,02)によりカンチレバーの下部電極が現れるまで2回のパターニングを行った.またシリコン基板からカンチレバー構造をリリースするためにTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)ウエットエッチングによって裏面からのバルクエッチングを行った.TMAHの温度は353Kで,シリコンウエハーの裏側を酸化被膜により保護し,リリース部分をイオンエッチングでパターニング後にTMAHに浸した.
図6に作成したカンチレバーを示す.検出された変位は,予想より小さくおよそ10nmであった.この理由は,カンチレバー作成の最終工程のTMAHウエットエッチングにおいて上部電極がSi基板より部分的に剥がれてしまったこと,またシリコンエッチングによりとりきれずに残っていたためである.製作上の難点は,PZT薄膜のエッチング速度が遅いことと,レジスト焼けである.
図6 製作したカンチレバー
PZTとPtに対して得られたエッチング速度はおよそ1nm/minで,これに対するレジストの選択性は1:12である.そのために1ミクロンのPZTを加工するのに2度レジストコーテインク,パターニングを行わなければならない.このエッチング速度は,シリコンおよびシリコンの化合物より悪い.高エネルギーのリアクティブイオンエッチングはエッチング速度が増大するが,レジスト焼けの危険性も増大する.クロムのマスクを同じようにレジストマスクの代わりに適用する方法もあるが,クロムのウエットエッチング液はPZT薄膜もエッチングしてしまう危険性がある.
相対誘電率はPZT層の静電容量の測定により計算される.アニーリング前とアニーリング後の1kHzにおける静電容量を決定するためにロックインアンプを用いた.圧電による変位測定のためのカンチレバービームを製作し,ビームの変位はレーザ干渉計で測定した.アニーリング前に測定された試料の相対誘電率はFAB処理の試料の4という値を除いてはほとんど0であった.アニーリング後の試料の相対誘電率は真空雰囲気,酸素およびFAB処理でそれぞれ90,210および310であった.また損失角(tanδ)はすべての試料に対し数%の範囲内であった.これらのデータはターゲットの1800という値より低いがこの特性はパイロクロア形態の存在によるものである.
図7はFAB処理後のPZT薄膜の典型的なヒステリシス曲線である.35V/cm2の電場において最大分極に達したのは,10マイクロC/cm2であった.レーザ干渉計に設置し,低周波交流電圧を電極に印可しビームの先端の応答をFFTアナライザーにより表示した.その時に励起された周波数100Hzでビームの周有周波数よりかなり低く,その測定された変位は,準静的と見なすことができる.
図7 PZT薄膜のヒステリシス曲線
5.今後の課題は剥離の防止
現在この手法では毎時3.5ミクロン程度の膜厚のPZTが生成できる.しかし,膜の特性を向上させるために生成膜をアニールする必要がある.このときに熱応力によって基板のSiO2と下部電極のPt/Tiの界面よりしばしば剥離することがある.現在,剥離を防止するために成膜時の試料加熱およびアニール条件の詳細な検討を行っている.
以上の様に,PLD法はゾルゲル法などと比べ非常に速い被膜生成速度が得られるため,これの問題を一歩一歩解決し,PZT薄膜の高速析出および膜特性の向上に向けてさらに研究を進めて行きたい.
[発表者]
機械技術研究所 生産システム部 界面制御研究室 菊地 薫
Tel: 0298-61-7220, Fax: 0298-61-7201
[連絡先]
機械技術研究所 統括研究調査官室 千阪文武/石塚一則
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