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我々人間が行う作業においてもその作業の達成のために全ての関節を必ずしも駆動しているとは限らず,ある関節はフリーな状態にして慣性などの動力学的特性を巧みに利用することにより作業を遂行することがある.例えば,野球の投球,テニスのスイングなどはその動作中において人間は全ての関節を常に駆動しているとは限らず,ある関節はフリーな状態にして,自分自身の腕の慣性などを巧みに利用することにより,その動作を行ったりしている.
また,人間が物体をハンドリングする際においても,常に対象物を完全に把持している状態とは限らず,時には対象物を緩く握ったりして,手と対象物の相対的な運動を許し,対象物の慣性などを利用して巧みに対象物のハンドリングを行っている.この場合,人間と対象物の接触点が非駆動関節とみなせる状態になっている.つまり,ここでいう非駆動関節とは,実際に非駆動な関節がある場合のみならず,人間と対象物の接触点などのような力学的にみて非駆動関節とみなせるものも含んでいる.
この人間による物体のハンドリングは,ロボットによる物体のハンドリングと対照的である.通常,ロボットが対象物をハンドリングする場合,対象物はハンドにより完全に把持されており,対象物とハンドとの相対的な運動は許されていない.つまり,対象物とハンドは一体とみなすことができ,対象物の運動は,対象物を把持するハンドの運動計画問題として扱うことができる.このことは,対象物のハンドリング問題を,対象物の把持問題およびハンドの経路計画問題とに分離でき,問題を簡単化できる反面,対象物のハンドとの相対的な運動を制約しているため,人間のような器用な対象物のハンドリングの可能性が失われてしまう.そのような対象物の完全な把持によるハンドリングでは,大きな物体などハンドにより把持できない対象物のハンドリングの可能性まで失われてしまう.また,対象物の動力学的なハンドリングは,対象物を完全に把持した運動学的なハンドリングに比べてより高速に作業を行うことも可能である.
このように人間は,自分自身に存在する,あるいは対象物との間に存在する非駆動関節を作業に内在する動力学的特性などを巧みに利用し,非駆動関節を有しながらも作業遂行を可能とし,また,積極的に非駆動関節の存在を利用することで,より高度で器用な作業を行っている.
ロボットによる作業は,通常,各関節に備え付けられたアクチュエータにより,作業に必要な駆動力/トルクを各関節部で発生して行われている.しかし,いろいろな状況において,ある関節が非駆動関節とみなせる,あるいは非駆動関節そのものである場合も存在し,その関節部において作業に必要な駆動トルクが得られないことがある.例えば,マニピュレータにおいてある関節が故障などを起こした場合,その関節は駆動トルクを発生できない非駆動関節であり,また,アクチュエータがトルク飽和を起こし一定となっている場合も,その関節は非駆動関節とみなせる状態となっている.しかし,そのような状況に陥ったからといって,ロボットがこれ以上作業を続けることが不可能であるかというとそうとも限らない.前述の台車上の倒立振子や人間による作業のように 作業に内在する動力学的特性を利用することにより,そのような非駆動関節を有する状況に陥ったとしても作業を遂行する可能性が残されている.つまり,これまでのロボットはそれ自身が持つ能力を十分に生かしきれていなかったように思われる.作業に内在する動力学的特性などを利用して, 非駆動関節を有するシステムの制御が可能となることにより,これまで,関節の故障やトルク飽和などで作業遂行が困難であったロボットでも,作業遂行が可能となり,ソフトウェア的にロボットの作業能力の向上を図ることにより,同じハードウェアを使用したとしてもこれまで以上の高度な作業を行わすことが可能となる.
これとは逆の立場から,マニピュレータなどのロボットの設計段階において最初から作業に内在する動力学的特性を利用することを念頭において,ある関節を非駆動としてマニピュレータを設計することにより,マニピュレータの重量や消費エネルギー,コストなどを押さえることが可能であり,また,システムの構造を単純にすることができ,これまでと同じ作業をより単純な構造のロボットにより行うことが可能となる.
このようにシステムに内在する動力学的特性などを利用して状況に応じた制御をすることで非駆動関節を有しながらもその制御が可能となることにより,ソフトウェアによるロボットの作業能力の拡大およびハードウェアの単純化を図ることが可能となる.またこれら以外にも,スラスタ入力によるホバークラフトの制御,摩擦の存在しない平面上での物体のプッシング,ブラキエーションロボット,クレーンの吊り荷,宇宙ロボットなど非駆動関節を有するとみなせるシステムはいろいろと存在する.これらのシステムに共通していえることは,システムの制御入力数がその一般化座標数より少ないunderactuated system であるということである.つまり,少ない制御入力により,多くの一般化座標を操作する必要があり,そのためには作業の動力学的特性などをうまく利用しなければならない.このような少ない制御入力により,より多くの一般化座標が操作できるのは,システムに内在する非ホロノミック性によるものである.動力学的特性を利用したロボットの高度なマニピュレーションの例として,ジャグリング,スローイング,バッティングなどいろいろと存在するが,本研究では,力学的にみて非駆動関節を有するシステムを取り扱う.そこで,本研究では,非駆動関節を有するマニピュレータ,ホバークラフト,摩擦の存在しない平面上でのプッシングなどの非駆動関節を有するシステムの単純なモデルとなっている,非駆動関節を有する剛体リンク系を考え,その単純化したシステムに対して,作業の動力学的特性を利用することにより,非駆動関節を有しながらもその状況に応じた制御で作業の遂行を可能とするような制御手法の提案を行う.
対象とするシステムは,システムの動力学的特性が顕著に現れるよう重力の影響を受けない水平面内のみの運動とする.具体的には,非駆動関節を有する剛体リンク系の単純なモデルとして1つの非駆動回転関節を有する平面剛体自由リンクを考える.関節は非駆動であるため,そこで駆動トルクは発生できず,外部より間接的に非駆動関節部に加わる任意方向の並進加速度入力により非駆動関節を有する平面剛体の制御を行っていく.ここでは,リンクは水平面内のみの運動としているので,関節部に加わる任意方向の並進加速度入力は,関節部における2方向の並進加速度入力で表すことができる.つまり,2方向の並進加速度入力により,自由リンクの位置と姿勢の3つの一般化座標の制御をシステムの動力学的特性を利用することにより行う.
また,本研究では,1つの非駆動関節を有する剛体リンクを拡張した複数の剛体リンクが複数の非駆動関節で直列に繋がれたシステムの制御の可能性についても考える.この場合,その運動計画を容易にするために,対象とする複数の非駆動関節を有するシステムがある構造を持つように設計することにより,1つの非駆動関節を有する剛体リンクに対する運動計画法をそのまま拡張して適用することができる.そして,その複数の非駆動関節を有するシステムのある一般化速度ゼロの状態から,他の一般化速度ゼロの状態への形状空間内での,位置決めのための運動計画法を提案する.これまでに複数の非駆動関節により繋がれた多体リンクシステムに対して,その制御の可能性を示した研究は存在するが,それらは,実際に実行可能な軌道を与えてはいない.しかし,本研究での複数の非駆動関節を有するシステムに対する運動計画法により得られた軌道は,そのまま実際に実行可能な軌道となっている.
非駆動関節を有するシステムの制御手法の実際の環境への適用には,障害物が存在する空間でも作業を遂行できることが必要となってくる.そこで,本研究ではまた,障害物が存在する空間での非駆動関節を有するシステムの障害物回避運動計画法を提案する.そして,その一例として,1つの非駆動関節を有する水平3軸マニピュレータに対し提案した運動計画法を適用する.