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平成10年度 筑波大学 博士論文

非駆動関節を有する剛体リンク系の制御に関する研究

筑波大学 構造工学系

機械技術研究所ロボット工学部バイオロボティクス研究室

城間 直司

指導教官:筑波大学連携大学院,機械技術研究所 谷江和雄


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[概 要]

 マニピュレータなどのロボットは,通常各関節にそれぞれ最低1つのアクチュエータが存在し,その駆動力/トルクによりさまざまな作業を行っている.本研究で取り扱うシステムが有する非駆動関節とは,関節部にアクチュエータや保持ブレーキを装備せず,そこでは全く駆動トルクを発生することはできない回転関節である.非駆動関節が,駆動トルクを発生できないからといって,その関節が制御不可能かというとそうとも限らない.例えば,非駆動関節を有するシステムの単純な例として,台車上の倒立振子を考えてみる.これは,倒立振子が台車に非駆動関節により連結されたもので,関節部にはアクチュエータが存在せず,そこで駆動トルクを発生することはできない.しかし,台車が動くことにより発生する倒立振子の慣性力および重力を利用することにより,間接的に倒立振子を制御することができ,このシステムを任意の位置で倒立させることが可能である.この様にシステムが駆動できない関節を含んでいたとしても,重力や慣性力などのシステムに内在する動力学的特性をうまく利用することによりそのシステムを制御する可能性が残されている.

 我々人間が行う作業においてもその作業の達成のために全ての関節を必ずしも駆動しているとは限らず,ある関節はフリーな状態にして慣性などの動力学的特性を巧みに利用することにより作業を遂行することがある.例えば,野球の投球,テニスのスイングなどはその動作中において人間は全ての関節を常に駆動しているとは限らず,ある関節はフリーな状態にして,自分自身の腕の慣性などを巧みに利用することにより,その動作を行ったりしている.

 また,人間が物体をハンドリングする際においても,常に対象物を完全に把持している状態とは限らず,時には対象物を緩く握ったりして,手と対象物の相対的な運動を許し,対象物の慣性などを利用して巧みに対象物のハンドリングを行っている.この場合,人間と対象物の接触点が非駆動関節とみなせる状態になっている.つまり,ここでいう非駆動関節とは,実際に非駆動な関節がある場合のみならず,人間と対象物の接触点などのような力学的にみて非駆動関節とみなせるものも含んでいる.

 この人間による物体のハンドリングは,ロボットによる物体のハンドリングと対照的である.通常,ロボットが対象物をハンドリングする場合,対象物はハンドにより完全に把持されており,対象物とハンドとの相対的な運動は許されていない.つまり,対象物とハンドは一体とみなすことができ,対象物の運動は,対象物を把持するハンドの運動計画問題として扱うことができる.このことは,対象物のハンドリング問題を,対象物の把持問題およびハンドの経路計画問題とに分離でき,問題を簡単化できる反面,対象物のハンドとの相対的な運動を制約しているため,人間のような器用な対象物のハンドリングの可能性が失われてしまう.そのような対象物の完全な把持によるハンドリングでは,大きな物体などハンドにより把持できない対象物のハンドリングの可能性まで失われてしまう.また,対象物の動力学的なハンドリングは,対象物を完全に把持した運動学的なハンドリングに比べてより高速に作業を行うことも可能である.

 このように人間は,自分自身に存在する,あるいは対象物との間に存在する非駆動関節を作業に内在する動力学的特性などを巧みに利用し,非駆動関節を有しながらも作業遂行を可能とし,また,積極的に非駆動関節の存在を利用することで,より高度で器用な作業を行っている.

 ロボットによる作業は,通常,各関節に備え付けられたアクチュエータにより,作業に必要な駆動力/トルクを各関節部で発生して行われている.しかし,いろいろな状況において,ある関節が非駆動関節とみなせる,あるいは非駆動関節そのものである場合も存在し,その関節部において作業に必要な駆動トルクが得られないことがある.例えば,マニピュレータにおいてある関節が故障などを起こした場合,その関節は駆動トルクを発生できない非駆動関節であり,また,アクチュエータがトルク飽和を起こし一定となっている場合も,その関節は非駆動関節とみなせる状態となっている.しかし,そのような状況に陥ったからといって,ロボットがこれ以上作業を続けることが不可能であるかというとそうとも限らない.前述の台車上の倒立振子や人間による作業のように 作業に内在する動力学的特性を利用することにより,そのような非駆動関節を有する状況に陥ったとしても作業を遂行する可能性が残されている.つまり,これまでのロボットはそれ自身が持つ能力を十分に生かしきれていなかったように思われる.作業に内在する動力学的特性などを利用して, 非駆動関節を有するシステムの制御が可能となることにより,これまで,関節の故障やトルク飽和などで作業遂行が困難であったロボットでも,作業遂行が可能となり,ソフトウェア的にロボットの作業能力の向上を図ることにより,同じハードウェアを使用したとしてもこれまで以上の高度な作業を行わすことが可能となる.

 これとは逆の立場から,マニピュレータなどのロボットの設計段階において最初から作業に内在する動力学的特性を利用することを念頭において,ある関節を非駆動としてマニピュレータを設計することにより,マニピュレータの重量や消費エネルギー,コストなどを押さえることが可能であり,また,システムの構造を単純にすることができ,これまでと同じ作業をより単純な構造のロボットにより行うことが可能となる.

 このようにシステムに内在する動力学的特性などを利用して状況に応じた制御をすることで非駆動関節を有しながらもその制御が可能となることにより,ソフトウェアによるロボットの作業能力の拡大およびハードウェアの単純化を図ることが可能となる.またこれら以外にも,スラスタ入力によるホバークラフトの制御,摩擦の存在しない平面上での物体のプッシング,ブラキエーションロボット,クレーンの吊り荷,宇宙ロボットなど非駆動関節を有するとみなせるシステムはいろいろと存在する.これらのシステムに共通していえることは,システムの制御入力数がその一般化座標数より少ないunderactuated system であるということである.つまり,少ない制御入力により,多くの一般化座標を操作する必要があり,そのためには作業の動力学的特性などをうまく利用しなければならない.このような少ない制御入力により,より多くの一般化座標が操作できるのは,システムに内在する非ホロノミック性によるものである.動力学的特性を利用したロボットの高度なマニピュレーションの例として,ジャグリング,スローイング,バッティングなどいろいろと存在するが,本研究では,力学的にみて非駆動関節を有するシステムを取り扱う.そこで,本研究では,非駆動関節を有するマニピュレータ,ホバークラフト,摩擦の存在しない平面上でのプッシングなどの非駆動関節を有するシステムの単純なモデルとなっている,非駆動関節を有する剛体リンク系を考え,その単純化したシステムに対して,作業の動力学的特性を利用することにより,非駆動関節を有しながらもその状況に応じた制御で作業の遂行を可能とするような制御手法の提案を行う.

 対象とするシステムは,システムの動力学的特性が顕著に現れるよう重力の影響を受けない水平面内のみの運動とする.具体的には,非駆動関節を有する剛体リンク系の単純なモデルとして1つの非駆動回転関節を有する平面剛体自由リンクを考える.関節は非駆動であるため,そこで駆動トルクは発生できず,外部より間接的に非駆動関節部に加わる任意方向の並進加速度入力により非駆動関節を有する平面剛体の制御を行っていく.ここでは,リンクは水平面内のみの運動としているので,関節部に加わる任意方向の並進加速度入力は,関節部における2方向の並進加速度入力で表すことができる.つまり,2方向の並進加速度入力により,自由リンクの位置と姿勢の3つの一般化座標の制御をシステムの動力学的特性を利用することにより行う.

 また,本研究では,1つの非駆動関節を有する剛体リンクを拡張した複数の剛体リンクが複数の非駆動関節で直列に繋がれたシステムの制御の可能性についても考える.この場合,その運動計画を容易にするために,対象とする複数の非駆動関節を有するシステムがある構造を持つように設計することにより,1つの非駆動関節を有する剛体リンクに対する運動計画法をそのまま拡張して適用することができる.そして,その複数の非駆動関節を有するシステムのある一般化速度ゼロの状態から,他の一般化速度ゼロの状態への形状空間内での,位置決めのための運動計画法を提案する.これまでに複数の非駆動関節により繋がれた多体リンクシステムに対して,その制御の可能性を示した研究は存在するが,それらは,実際に実行可能な軌道を与えてはいない.しかし,本研究での複数の非駆動関節を有するシステムに対する運動計画法により得られた軌道は,そのまま実際に実行可能な軌道となっている.

 非駆動関節を有するシステムの制御手法の実際の環境への適用には,障害物が存在する空間でも作業を遂行できることが必要となってくる.そこで,本研究ではまた,障害物が存在する空間での非駆動関節を有するシステムの障害物回避運動計画法を提案する.そして,その一例として,1つの非駆動関節を有する水平3軸マニピュレータに対し提案した運動計画法を適用する.


[内 容]

第1章 緒言

 1.1 非駆動関節を有するシステム
 1.2 非ホロノミックシステム
 1.3 関連研究
  1.3.1 非駆動関節を有するシステムに関する関連研究
  1.3.2 非ホロノミックシステムに関する関連研究
  1.3.3 運動計画に関する関連研究
 1.4 本論文の構成

第2章 1つの非駆動関節を有する平面剛体の制御

 2.1 はじめに
 2.2 システムのモデル化
  2.2.1 システムのモデル  2.2.2 非ホロノミック拘束
 2.3 軌道計画
  2.3.1 可制御性  2.3.2 軌道要素  2.3.3 繋ぎ合わせ軌道の構成
 2.4 フィードバック制御
  2.4.1 座標変換  2.4.2 並進軌道フィードバック  2.4.3 回転軌道フィードバック
 2.5 シミュレーション
 2.6 実験
 2.7 まとめ

第3章 複数の非駆動関節を有する連結平面剛体の運動計画への拡張

 3.1 はじめに
 3.2 連結剛体のモデル化
 3.3 2連結剛体の運動計画
  3.3.1 1剛体の運動計画  3.3.2 2連結剛体の運動計画  3.3.3 シミュレーション
 3.4 連結剛体の運動計画
  3.4.1 連結剛体の回転軌道要素  3.4.2 連結剛体の並進軌道要素
  3.4.3 連結剛体の位置決め軌道の構成
 3.5 討論
 3.6 まとめ

第4章 非駆動関節を有する水平マニピュレータによる障害物回避運動

 4.1 はじめに
 4.2 システムのモデル
 4.3 障害物回避運動計画
  4.3.1 可制御性  4.3.2 軌道計画の経路計画と時間軸伸縮への分離
  4.3.3 経路計画  4.3.4 時間軸伸縮
 4.4 実験
 4.5 まとめ

第5章 結 論

付録A 自由リンクの微小時間局所可制御性

付録B 部分系(2.43)の厳密線形化

謝辞

参考文献


[参考文献]

誌上発表

  1. Hirohiko Arai, Kazuo Tanie and Naoji Shiroma: "Feedback Control of a 3-DOF Planar Underactuated Manipulator," Proc. of 1997 IEEE Intl. Conf. on Robotics and Automation, pp.703-709, 1997.
  2. Naoji Shiroma, Hirohiko Arai and Kazuo Tanie: "Nonlinear Control of a Planar Free Link under a Nonholonomic Constraint," Proc. 8th Intl. Conf. on Advanced Robotics, pp.103-109, 1997.
  3. 荒井裕彦,谷江和雄,城間直司: "非駆動関節を有する水平3軸マニピュレータの 非ホロノミック拘束下におけるフィードバック制御," 日本ロボット学会誌, 15-6,pp.943-952, 1997.
  4. Kevin M. Lynch, Naoji Shiroma, Hirohiko Arai and Kazuo Tanie: "Motion Planning for a 3-DOF Robot with a Passive Joint," Proc. of 1998 IEEE Intl. Conf. on Robotics and Automation, pp.927-932, 1998.
  5. Hirohiko Arai, Kazuo Tanie and Naoji Shiroma: "Nonholonomic Control of a Three-DOF Planar Underactuated Manipulator," IEEE Transactions on Robotics and Automation, 14-5, pp.681-695, 1998.
  6. Naoji Shiroma, Hirohiko Arai and Kazuo Tanie: "Nonholonomic Motion Planning for Coupled Planar Rigid Bodies," 3rd Intl. Conf. on Advanced Mechatronics, pp.173-178, 1998.

口頭発表

  1. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "非駆動関節を有する3自由度マニピュレータの 非ホロノミック拘束下におけるフィードバック制御," 第14回日本ロボット学会学術講演会, 1996.
  2. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "非駆動関節を有する3自由度マニピュレータの 非ホロノミック拘束下におけるフィードバック制御," 機械技術研究所所内研究発表会, 平成8年12月1日.
  3. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "非駆動関節を有する水平3軸マニピュレータの 非線形フィードバック制御実験," 機械技術研究所所内研究発表会, 平成9年5月22日.
  4. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "2階の非ホロノミック拘束を受ける平面自由リンクの非線形制御," ロボティクス・メカトロニクス講演会'97講演論文集(Vol.B), pp.811-814, 1997.
  5. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "非駆動関節を有する水平3軸マニピュレータの障害物回避運動計画," 機械技術研究所所内研究発表会, 平成9年11月12日.
  6. 城間直司,荒井裕彦,谷江和雄: "連結平面剛体の非ホロノミック運動計画," ロボティクス・メカトロニクス講演会'98講演論文集, 2AIII2-2, 1998.

城間 直司(naoji@roboken.esys.tsukuba.ac.jp)